FXの限界が教えてくれた「育てる投資」

この経験を通じて柴山は、FX投資の限界を悟った。ただ、投資をすることのだいご味や面白さはわかった。柴山は、「育てる投資」をしてみたいと考えるようになっていた。畜産家が子牛を仕入れて成牛に育てることによって収益を得るように、世の中に知られていない成長企業に投資して、世の中に認知されるほど目覚ましい業績をあげるようになったときに売却すれば、大きな収益が期待できる。世の中には、そのような投資機会は決して少なくないことを知った。

たとえば、iPhoneで有名な米アップルの株価は、2004年には1ドル以下で買えた。それが、20年後の今では200ドルを超えている。また、AI(人工知能)向け半導体で有名なエヌビディアの株価も20年前は0.2ドルだった。それが今や130ドルになっている。20年間で650倍だ。これらの変化は、NASDAQ市場という一般公開の株式市場で起こったことで、誰でも購入し、その成長に参加することができた。今年から始まった新NISAなら、収益非課税で投資ができるので大きなリターンを得る投資に有利な制度になっている。

2つの「働き手」という発想

FX投資にのめり込み、また、さまざまな投資について情報を集めたことで、柴山は働くことに関する意識や社会を見る目も変わった。第一に感じたのは、レバレッジを使うなどの背伸びをするような考え方で行動すると、たとえうまくいったとしても長く続かないということだ。当たり前のことだが、身の程を知って、自分の実力に見合った行動をすべきだ。そして、自分自身が働いて収入を得るばかりでなく、資産も有効な投資をすることで収益を生み出すことができる。つまり、自分の身体と自分の資産という2つの働き手があるということだ。

柴山は、これまでの自分の働き方を反省した。自分自身に対する期待値が高く、かなり背伸びした成果を求めていたようだった。その高望みについても、「働き手が2つある」と考えるとずいぶん考え方が変わってきた。資産の方は、アップルやマイクロソフト、エヌビディアだって投資対象になる。自由に国境を越えて働かせることができるのだ。自分自身が今から就職しようとするととても高いハードルがあるが、資産は楽々とハードルを越えて自由に投資先(働く先)を選ぶことができる。

このことを知ったことで、就職先選びに失敗したというネガティブな感情から柴山は解放された。自分自身は、できることをコツコツ働けばいい。もちろん働くことでキャリアアップしたり、自分自身の成長があることは大事なことだが、他人と比べたり、競争してのし上がるような働き方はしなくてもいい。もう一つの働き手である資産の成長と合わせて考え、トータルで成績を考えるようにすればよいと思うと、ずいぶん気持ちに余裕が持てるようになった。