きっかけさえあれば、人生は豊かに

健太は、1人でやって来た後は、毎週のように原を訪ねてくるようになった。翔一の息子の湊(7歳)とは1つ違いで仲が良く、原と翔一と一緒に4人でサッカーボールを追いかけることが多かった。健太が土曜日にやってきて1泊するようになると、湊も同じようにしたいと言い出し、週末が急ににぎやかになった。

原は、遊び疲れて眠ってしまった2人の孫の寝顔を見ながら、「親が許してくれるのなら、孫と一緒に海外でしばらく暮らすというのも悪くない」と考えていた。今の時代、いずれかの外国語に堪能なことは有用なスキルになり得る。そのためには、現地で暮らして身につけることが一番だ。子どもが小さい間に1年か2年の語学留学のつもりで預けてくれないものだろうか。どのみち、今持っている資産を墓場まで持って行ってもしかたがない。仕事もないことだし、一人暮らしだから、どこで暮らしても問題ない。孫のスキルアップにつながるのであれば、やりがいもある。そう考え始めると、原は久しく忘れていたワクワクした気持ちになってきた。改めて信託銀行を訪ねて、資産運用の相談をしようと思った。ただ使うだけでなく、増やしながら使い、次の世代に残す工夫もしてみたいと考えていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。