日銀は2024年3月の金融政策決定会合で「マイナス金利政策」の解除を決めた。事実上、17年ぶりの「利上げ」を決定したことになる。この17年間は、不景気とデフレ(物価下落)によって、日銀はゼロ%以下に引き下げた金利で、じっと息をひそめているだけの存在で、主体的に短期金利を動かすなどによって景気の熱量を調整することができなくなっていたのだった。日銀は「ようやく正常な政策に戻れる見通しがたった」と安どしたところだろう。ただ、17年にわたって続いた超低金利政策は、日本の内外にさまざまな「歪(ひずみ)」を残した。大幅に膨れ上がった政府債務は負の遺産の象徴といえるが、超低金利のために命脈を保つことができたゾンビ企業も少なくないと考えられる。そして、金融政策の変更は、個々人の生活にも少なからず影響を及ぼすことになる。

 

新NISAで狙う「高配当利回り株式」

日銀がマイナス金利政策の解除を決めた3月19日、鏑木翔太(36歳)は、東京証券取引所に上場している株式の配当利回りランキングを見て頭を抱えていた。新NISAを使って配当利回りの高い株式に投資するつもりでいたが、投資したいという銘柄が見当たらないのだった。配当利回りがトップ6.41%の「極東証券」の1週間前の株価は1080円くらいだったものが、既に1700円を超えていた。「1週間でこれほど値上がりしたものを、ここから買えるか? 短期間で50%以上も株価が値上がりしたのに、ここからさらに上がるということがあり得るのだろうか?」と疑問が強くなった。

そこで、第2位の「アイティメディア」の株価をチェックすると、こちらも1月までは1000円程度だった株価が2000円近くまで上昇していた。第3位の「PHCホールディングス」は、逆に、1500円を超えていた株価が1200円台に下落している。配当利回りは5.62%だ。この会社の前身はパナソニックヘルスケアというのだそうだ。2014年にファンドの傘下に入ったらしい。糖尿病製品や臨床検査などに強い会社ということだ。ただ、直近(2月9日)発表した2024年3月期第3四半期決算で営業利益が51億円超の赤字、税前利益は約138億円の赤字になっている。赤字の企業もちょっと買いたくない。第4位の「レイズネクスト」は、株価が1500円台から2200円台に値上がりしてしまっている。第5位の「タカラレーベン不動産投資法人」が株価10万4000円近辺から9万4000円近辺に下落したところだが、「不動産投信ねぇ……」と興味が持てなかった。

鏑木は「投資」に関するYouTubeやXなどのSNSを探して「NISA、はじめての投資」についての知見を広めたつもりだった。その結果、新NISAで収益(売買差益)や配当・分配金に対する20%程度の課税が免除されるのだから、多くの配当がもらえる方が得をするというものに強く同感した。配当利回りで銀行預金に置いておくよりも高い利回りを得て、株価が上昇すれば、それだけ多くの利益が得られる。3月19日に発表された日銀の金融政策の変更によって、普通預金金利が20倍になったと大ごとのように報じられているが、20倍といっても、0.001%だった金利が0.02%になったというだけで、ゼロ%台金利であることに変わりはない。これに対し、配当利回りが高い株式は5%を超える利回りが期待できる。0.02%の預金金利の250倍だ。ただ、株価は下がる可能性もある。納得いかない銘柄を選んで、株価が下がったら、投資を開始した意味がないと考え込んでしまったのだった。鏑木は、結局、投資をスタートすることができなかった。