「S&P500」インデックス投資から次の一手
洲本誠人(35歳)は、2カ月余りの間で10%程度も増えた資産にドキドキしていた。今年1月に始めたばかりの投資で、最初に投資した10万円の評価額がすでに11万円を超えていた。NISAが新しくなって収益非課税期間が無期限に延長されるとともに、1人当たりの非課税枠も総額で1800万円にまで拡大されると知って、洲本は、いよいよ投資を始める時期が来たと感じた。コロナ禍以降、洲本の同年配の者たちが、「S&P500」や「NASDAQ100」、「MSCIコクサイ」などのインデックスファンドに投資し始めた。中には、「レバナス(レバレッジNASDAQ100)」を使って資産が2倍を超えたという話も聞いた。ただ、一般NISAでは年間非課税額が120万円で5年間しか非課税期間が継続しないため、投資資金を増やす手段として中途半端に感じられて、わざわざ投資を始める気になれないでいた。ところが、新NISAで非課税投資可能額が大幅に拡充されることになり、洲本は「投資しない理由がなくなった」と思った。
そこで、洲本が選択したのは米株価指数「S&P500」に連動するインデックスファンドだった。洲本の周りでは、資産形成に低コストのインデックスファンドを使うことは常識になっていた。信託報酬が年1%を超えるような商品は「論外」だった。それは、ロボットアドバイザーを使わない理由にもなっていた。使うのは、「S&P500」か「オルカン(MSCI ACWI=オール・カントリー・ワールド・インデックス)」のどちらかで決まっていて、後は、やるかやらないかの違いだけだった。洲本は、より大きなリターンが期待できる「S&P500」を選択し、毎月10万円の積立投資をスタートした。洲本の銀行預金口座には400万円近い預金があり、毎月10万円の積立投資を3年間は続けるつもりだった。
まずは、様子見と思ってスタートした投資が、いきなり成果に恵まれたことで、洲本の気持ちがざわついていた。「2カ月余りで10%超の成績ができすぎかどうかはよくわからないが、投資資金が10万円だったから1万円ちょっとの利益だったが、最初に投資予定額の全額360万円を投資していたら、36万円以上の利益になっていたことになる。給料と変わらない利益が得られた。もし、値動きが2倍になるレバレッジ型の投資信託に投資していれば、36万円の利益は2倍になる計算だ。これを数回でも続ければ、100万円や200万円など、簡単に増えるじゃないか……」と、考えれば考えるほど、洲本の鼓動は高まった。ただ、レバレッジ型の投資信託は、NISAの対象外だった。収益には20%課税されることになる。利幅が大きい分だけ、その収益に課税されることは痛手だったが、それ以上に獲得できる収益は大きくなるから20%課税も気にならなかった。取りあえず、S&P500のレバレッジ型の投資信託に50万円を投資することにした。