初めて投資信託に投資できた理由

同じ日、坂本ひとみ(34歳)は、新NISAで購入する投資信託を探していた。最近、学生時代からの友達も投資を始め、投資をすることが流行のようになっていて、その流れに遅れてはいけないという思いがあった。ただ、初めて投資しようとして、自分なりに少し調べたつもりだったが、実際に資金を投資しようとすると迷った。リスク許容度診断というのをやってみたが、その答えで「5段階の3」といわれても、なにが「3」なのか、それが良いことなのかなど、ピンとこなかった。いくつかYouTubeの解説も見てみたが、政府のお墨付きの投資は、積立投資でインデックスファンドを買うことだって強調するばかりで、積立投資やインデックスファンドというのが、今一つよくわからなかった。

ひとみが一番迷うのは、やはり、投資信託が無数にあることだ。どれか1つを選べと言われても、選ぶ基準がよくわからなかった。こんな時に、誰かに相談したいと思うのだが、その相談相手を見つけるのが難しかった。これまでも、ゼロ%金利しかない預金ではお金が増えないので、何度か投資信託を買ってみようと思ったのだが、そのたびに、何を買えばよいのかがわからなくて、投資を実行できなかった。ただ、何度か投資について考える機会を持ったことで、絶対にもうかるという投資はないこと、また、数カ月等の短期で結果を求めるものではなく数年、数十年という長期に投資することが必要だということはわかっていた。そして、1年ほど前に投資を検討した時よりも、確実に株価は上がっていた。あの時、思い切って投資していれば、利益を得ていたことは確かだと思えた。

そこで、ひとみが考えたのは、「何事も経験しなくては、本質はわからない」ということだった。SNSには、さまざまな情報があるが、その内容は、情報の発信者が体験したことから考えたことであり、それはひとみの経験ではなかった。話の内容がしっくりこないのは当然といえ、このまま考えるだけで終わっていては、一歩も前進しないと感じた。そして、最初から失敗がないことを求めてもいけないとも思った。投資信託は、そもそも分散投資をするツールであるから、たとえ失敗したとしても、1万円がゼロになってしまうことはない。せいぜい、1万円が8000円とか7000円になるくらいだろう。そのくらいの損失なら、たとえそうなったとしても「勉強の学費」としてあきらめもつく。そう考えたひとみは、投資の基本は資産分散という言葉に従って、株式にも債券にも、不動産にも金(ゴールド)にも投資するという投資信託を2万円分購入することにした。今後、毎月2万円を投資して様子を見るつもりだった。