まずは、満を持して投資をスタートしようとした人が、あまりの株高にためらってしまった話。投資によって資産をつくろうと決意した意欲と、克服しなければならない元本割れへの恐怖が葛藤する。はたして、無事に投資をスタートできるのだろうか……。
初めての投資が日経平均4万円台
「投資はギャンブルだから、失敗したくない……」というのが、神塚直樹(37歳)が考える投資への偽らざる心構えなのだった。日頃は、「コスパ(コストパフォーマンス)」や「タイパ(タイムパフォーマンス)」などと言って、資産も時間も効率的に管理したスマートな生活を理想としながら、その上着を1枚脱ぐと、とても臆病な自分がいることに気がついた。ちょうど日経平均株価が4万円を超えた日、新NISAの「つみたて投資枠」で「全世界株式(オール・カントリー・ワールド・インデックス)」に連動するインデックスファンドを注文しようとした時、突然、頭の中に響いた「本当にそれでいいのか?」という割れ鐘のような大声に動きが止まったからだ。
頭の中に響いた声に怯えて、スマートフォンのアプリで「注文を確定する」のボタンを押そうとしていた神塚の指は動かなくなった。「日経平均4万円の今、株式を買っても大丈夫なのか!?」。米国株も史上最高値を更新している。もちろん、株価が値上がりしていることは悪いことではなかった。むしろ、値上がりしていなければ、株式に投資する投資信託を購入しようという気持ちにもならなかっただろう。しかし、いざ、自分が購入しようとすると、崖の上から飛び降りるように命じられている気持ちになった。
神塚は、これまで「投資」など、考えもしなかった。神奈川県に生まれ、東京の私立大学を卒業して、埼玉に本社がある産業機械メーカーに就職した。小学校の頃の運動会では50m走で手をつないでみんなでゴールした。ゆとり教育のフロントランナーとして育った。目立った学生ではなかったし、就職して特に大きな望みがあるわけでもなかった。「人並みの生活と人並みな幸せ」が得られれば良いと考えていた。この頃、同級生らが結婚するようになったので、結婚した方が良いのかと、焦りを覚えてもいた。