給料アップを提案されるほどの人物がなぜ不正に手を染めたのか

佐藤さんは、その働きぶりを評価され、以前より会社の社長から給料アップの提案をされていました。しかし、給料がアップすると、児童手当の所得制限に引っかかり、支給額が減ると思い、断り続けていました。結果、家計は貯蓄をする余裕がないほどカツカツ、今の給料レベルでは苦しい状況にもかかわらずです。

佐藤さんの奥様、祥子さん(仮名)は美容院に行く回数を減らしたり、自分の食事を質素にしたり、節約に頑張るのですが、貴明さん自身には節約の意識はありません。酒とゲーム課金に毎月3万円、ランチは会社の付き合いで外食しないといけないという存在しないマイルールを厳守し毎日1000円、それにコーヒー代も含め1ヵ月に2万5000円、その他、交通費や通信費等、合計すると6万円ほどになり、これらは、貴明さんのお小遣いです。しかし、家計からお小遣いを捻出する余裕はありません。このお小遣いには、児童手当が当てられていたのです…!

ここで、佐藤さんの児童手当の受給状況をお話しすると、佐藤さんには、小学生、中学生、高校生の3人の子どもがいます。このうち、小学生と中学生の子には、1ヵ月あたり合計2万5000円の児童手当が支給されています。それに加え、小学生の子には特別児童扶養手当が1ヵ月あたり約3万5000円支給されています。

特別児童扶養手当とは、20歳未満の障害を持つ子を育てている場合に支給される手当です。小学生のお子様は歩行障害があるため、この手当が支給されています。これら2つの手当で月約6万円が支給され、それがそのまま貴明さんのお小遣いになっていたのです。

当然ながら、ゲーム課金やランチを節約すれば家計に余裕が出ます。しかし、残念ながら本人はそれらを無駄遣いとは思っていないため節約対象とは思っていません。むしろ、高級なお店にも行かない、洋服などファッション品にもお金を使わず倹約しているという意識すらあります。

お小遣いが足りない時は、祥子さんにおねだりしますが、家計が苦しいことは貴明さんも知っています。そこで、貴明さんは家計に負担をかけず、お金を手に入れられる方法として不正を思いついてしまったのです。

佐藤さんは経理の責任者で会社のお金の流れはよく知っています。数万円であればバレないだろうと会社の売掛金を操作し3万円を横領しました。自分の仕事の1つであるかのように事務的に操作をしたのです。この時、佐藤さんに罪悪感はなかったそうです。

しかし、そううまくはいきません。書類や帳簿に不審な点があるということで、社長が気づき横領がバレたのです。本来であれば警察に通報する犯罪です。しかし、勤続20年の佐藤さんに社長は情もあり、「反省するなら」とやり直すチャンスを与えました。そして、佐藤さんはここではじめて罪悪感を覚え反省したのです。社長の寛大さが佐藤さんの心を大きく動かしたのでしょう。家計立て直しのためFPに相談するという選択をしました。

●家計相談で明らかになった、佐藤さんの過ちの根本原因は?  後編に続く>>