iDeCoの加入者数はまもなく270万人、2017年に加入者範囲が広がって知られるようになり、この5年余りで10倍ぐらいになりました。今回は、どんな人たちが、毎月どれくらいの掛け金をかけているのか、といった加入者のリアルな姿を最新の公表データをもとに追ってみたいと思います。

iDeCoの積立額、平均値は16,201円

まずは、積立額です。働き方、またお勤め先の退職金制度によって上限が異なるので、それらを一律に平均するのは、やや強引な気がしますが、2022年12月1日に公表されたiDeCoの加入者の概況(国民年金基金、2022年10月)を見てみますと、毎月の積立額の平均は16,201円です。

働き方別に平均積立額を見てみると、以下のようになります。

自営業・フリーランス     28,900円(拠出上限68,000円)
企業年金のない会社員     16,800円(拠出上限23,000円)
企業年金のある会社員     11,032円(拠出上限20,000円または12,000円)
公務員            11,019円(拠出上限12,000円)
専業主婦(夫)        15,474円(拠出上限23,000円)
任意加入被保険者       51,586円(拠出上限68,000円)

これらの積立額で、老後資金としてどれくらいの額が準備できるものなのでしょうか。

積立額は平均よりやや少ない1万5000円とし、40歳でiDeCoに加入し、65歳までの25年間積み立てを継続したとします。そうしますと、積立総額は450万円になります。運用を含めた資産総額はマーケット次第ですが、例えば年率5%で運用できたとすれば882万円と、1000万円近い老後資金を準備することができます

1000万円という金額は、中小企業の定年時のモデル退職金額に相当(東京都産業労働局 中小企業の賃金・退職金事情 令和2年版)する、なかなかの金額です。少額でも時間をかければ、積立額も増えますし、運用で増える部分もグンと大きくなる可能性が高いです。先ほどの試算の前提に使った年率5%という利回りは、iDeCo加入者よりも資産運用に苦手意識が強く保守的な運用をしている人が多い企業型確定拠出年金の加入者の半数がクリアしていますから、iDeCo加入者の方にとって非現実的な利回りではないと思います。

ただ、マーケットは年●%というような形で安定的に右肩上がりに値上がりし続けるということは決してありません。上昇と下落、そして低迷や暴落もあります。そして、急上昇するということも良くあります。記憶に新しいところでは2020年3月にコロナショックで大きく値下がりした後、夏にかけて急回復した時がそうですし、もう少し前であれば2012年12月に第2次安倍政権が経済成長戦略として「アベノミクス」を掲げた時も相場が急上昇しました。その前までにコツコツと安値で購入していた投資信託の価格が急上昇し、資産価値がぐんと増えた経験をもつiDeCo加入者の方も多いことでしょう。このように、低迷、暴落、そして急上昇を繰り返すのがマーケットで、その間ずっと積み立てと運用を継続することで資産を増やしていくことができます。

世界的に有名な資産家であるウォーレン・バフェット氏によれば、「ゆっくり増やす」ことが資産家になるコツだそうです。「早く、たくさん」儲けたいと思う欲は、仕組みが分からなくても人気の商品を買うよう促してきますし、リスクの高い商品に自分のリスク許容度以上の額を投資するよう強く促してきます。その誘惑に負けてしまうと、マーケットが暴落した時に想定外の大きな元本割れに見舞われることになります。

そして、こういう時に限ってマーケットは戻る気配を見せてくれません。そして精神的なストレスと不安から、元に戻って次の値上がりの波が来るのを待てずに損をしたまま保有資産を投げ売りしてしまいがちです。iDeCoはコツコツ、少額の積み立てですから、すぐに倍になるというようなことはありませんが、時間をかけてしっかり増やしやすい仕組みになっています。焦らず見守り育てることを心がけ、大きな頼りになる老後資金に育ててください。