感謝を込めた夫からの贈り物
夕方、帰宅して着替えを済ませると、敦也が「ちょっと待ってて」と言って寝室から小さな箱を持ってきた。白地にリボンがかけられた包装を渡され、美代子は一瞬、それが何なのか分からなかった。
「これ……今日、ちゃんと渡そうと思ってた」
中には、淡いグレーのポーチと、ラベンダーとユーカリのドライフラワーが添えられていた。さりげない色味の束が、ほんのり香っている。
「えっ、ありがとう……どうしたの、急に?」
美代子が問いかけると、敦也は少し考えてから言った。
「いろいろ任せきりだったなって。家のことも、育児も……行事って、準備がいちばん大変なのに。今日、こうして迎えられたのは……美代子のおかげだよ。ありがとう」
不器用なセリフ。
でも、その言葉はまっすぐで、何より彼の本音だった。
「……うん。嬉しいよ。すごく」
ドライフラワーの束を胸に抱えながら、美代子は自然と笑っていた。
派手なものではない。でも、そこに込められた気持ちははっきりと伝わってきた。
「ママー、明日も袴着ていい?」
そのとき、リビングの方から颯太の声が飛んできた。
「袴もうおしまい。また今度ね」
そう言いながら、美代子は草履の入った箱をそっと閉じた。颯太はダイニングの椅子によじ登り、テーブルの上に千歳飴の袋を並べている。
カーテンのすき間から差し込む西日が、3人の姿を橙色に照らしていた。部屋の中には、静かであたたかな音が流れていた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
