<前編のあらすじ>
体調を崩しがちな3歳の息子・颯太の七五三を控え、母親の美代子は衣装や写真館のプランを吟味し、費用をかけてでも盛大に祝いたいと考えていた。
しかし、仕事で忙しい夫・敦也は七五三への関心が薄く、美代子の提案に対しても「そこまでお金をかけることか」と冷淡な反応を示す。
ついに敦也は「七五三は親が自分の努力をアピールするためのものじゃない」と言い放つ。颯太のためを思ってのことだったのに、そう見られていたことにショックを受ける美代子。夫婦の間に静かな隔たりができていった。
●【前編】 「そこまでお金かけることかな」体の弱い息子の七五三、盛大に祝いたい妻に夫が放った冷たい一言
父子で過ごす休日
「今日はパパと公園行くー!」
朝食の皿をテーブルに残したまま、颯太が勢いよく玄関へ走っていく。敦也はそのあとを追いながら、帽子と上着を手にしていた。
この日はたまたま出張が入らず、久しぶりに家で過ごせる休日だった。
「水筒、バッグに入れといたからね。おやつも」
「了解」
敦也はいつもよりラフな服装で、玄関のドアを開ける。小さな足音とともに、ふたりの姿が外へ消えると、美代子は一息ついてキッチンに戻った。
食器を片付けながら、わずかに開いた窓から聞こえてくる鳥の声と遠ざかる自転車の音が、休日の空気をやわらかく運んでくる。
家の中にひとりきり。洗濯機を回し、掃除機をかけ、パソコンに向かって取引先への返信を済ませる。颯太の声がしない間にできることは、まだいくらでもあった。
午後2時過ぎ。ふたりはうっすら汗をかいた顔で帰ってきた。颯太の頬は赤く、服には砂場の名残がついている。
「ママ! パパと大きな山つくった!」
「ほんと?すごいね」
「すっごく大きかったんだよ! こーんなに大きかったの!」
敦也が笑って「まあ、半分以上は自分で崩してたけどな」と言いながら、颯太の頭を撫でる。麦茶をコップに注ぎながら、美代子はその光景を目で追った。
ふたりで過ごす時間に、息子がこんなにもはしゃいでいるのを見るのは、微笑ましかった。
