9月の最初の日曜日、亜美は急いで洗濯物を洗濯機に入れる。
25歳で結婚してから15年間、専業主婦として毎日同じことをくり返しているが今日はその中でも5本の指に入るほど焦りながら作業をしていた。
小5の息子、博樹が熱心に取り組んでいるサッカークラブで初めてスタメンを勝ち取った。亜美は11時から始まる試合の応援に、6歳の次男である孝明を連れて行かなければいけなかった。
慌ただしい日常に徒労感
洗濯機を回し、リビングに戻ると大画面で夫の脩人がソファに座りサブスクの映画を見ていた。寝間着のままでこちらを全く気にしてない脩人に苛立ちを覚える。
「ねえ、部屋に行って孝明に早く着替えるように言ってくれない? あの子、こういうときいつものんびりしてるからさ」
亜美がそう言うと脩人は大きな欠伸をする。
「どっか行くの?」
「博樹の応援に決まってるでしょ。試合に出るんだからさ」
「え? 行くの?」
驚いた顔の脩人を亜美は睨む。
昨晩、亜美は博樹がスタメンに選ばれたことを知った。不審者対策の観点から事前に立ち入りの申請をしていなければ、学校のグラウンドの近くまで入ることはできなかったが、それでも息子の晴れ舞台を見たいと思うのが親心だろう。亜美は親なら誰もがそう考えると思っていたが、脩人はそうではないらしい。
「当たり前でしょ。初のスタメンなんだよ?」
「練習試合だろ? これからスタメンに定着したらいつだって見られるだろ」
興味なさそうに脩人は言ってくる。
「あなたは来ないの?」
「行かないって。アイツだって来てって言ってないんだから」
「あっそ」
亜美は何も手伝ってくれない脩人を無視して家事を終わらせようとした。しかしこんなときに限って孝明は寸前になって行きたくないとぐずりだし、中々着替えをしてくれなかった。亜美は孝明を脩人に預けて行くことも考えたが、「放っておけよ、もう小学生だろ」という脩人に任せることもできず、強引に連れ出した孝明とともにグラウンドにつくころには、試合はとっくに始まっていた。
フェンスの外からグラウンドに目を凝らす。けれど、試合はすでに後半に入り、博樹は交代してしまったらしく、亜美は息子の活躍を目にすることができないまま、帰るしかなかった。