岡田との対話で知った真意

謹慎が明けて久しぶりに出勤をした朝礼で博巳は総務部の社員、そして岡田に対して頭を下げて謝罪をした。

「この度は私の身勝手な行動で皆さんに不快な思いをさせて申し訳ありませんでした。この反省期間で長くこの会社で働いているという思い上がりが自分の中にあったと気付きました。今後は考えを改めて誠心誠意仕事に励みたいと思います。本当に申し訳ありませんでした」

博巳はしっかりと自分の言葉で謝罪をする。すると社員からは小さな拍手が起きる。それだけで許されたとは思ってないが、拒絶されていたような空気が和らいだように博巳は感じながら仕事をこなした。

   ◇

昼の休憩の時間になったとき、博巳は岡田に声をかけられた。

「この後、時間ありますか?」

「あ、は、はい……」

驚きそして何も考えずに頷いてしまった。

岡田と2人で定食屋に入った。料理を注文して、来るまでの間に博巳はもう一度頭を下げる。

「この度は誠に申し訳ありませんでした。課長に対して失礼なことを言ってしまって」

そう言うと岡田はにこやかに笑う。

「いえ、気にしないでください。私のやり方が気に食わない気持ちは分かりますし。私も上の人間にさっさと決めてもらったほうが円滑に物事が進むとは思ってますから」

「……はい」

「ですがそれでは社員たちが何も考えなくなってしまいます。それでは下が育たないと私は感じてるんです。だからこそ私はできるだけ指示や答えは示さず、社員達で考えて動いてもらえるようにしてるんですよ」

岡田の言葉に博巳はハッとする。経理部長時代、会議で若手が何も発言しないことに苛立っていたことがあった。しかしあれは上の人間が指示をしてばかりだったからなのかもしれない。指示待ち人間だと揶揄したこともあったが、そんな社員を自分が作り上げてしまっていたのだ。

「……そこまで考えてるとは思いませんでした」

博巳がそう言うと岡田は嬉しそうに笑った。

「とはいえ私がやり過ぎて業務が遅くなっているのは事実でした。そこは改善しようと思います。そして今後とも何かあったらすかさずアドバイスをいただきたいです。斎藤さんの経験がうちのような若い人間の多い部署には絶対に必要なので」

岡田の言葉に顔が思わずほころぶ。かなり年下の人間にそんなことを言われるとは思ってなかった。それでも博巳にとって岡田の言葉は間違いなく嬉しいものだった。その瞬間に会社を辞めるなんて考えはどこかに消えていってしまった。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。