枝里子に諭される博巳

岡田に対してもっとリーダーシップを発揮してやってほしいという思いは間違いなくあった。しかし怒鳴る必要はなかった。感情的になりすぎてしまったことは、どう考えても自分に非があった。

「だったらまず謝罪をするべきよ。それで自分の気持ちを正直に伝えてみたらどう? あなたなりに不満があったから声を出したんでしょ? それを溜め込んでるのは良くないわ。だってあなたと同じ気持ちの社員だっているかもしれないんだから。そういうのを黙ってやり過ごすのがよっぽど悪影響よ。あなただってその職場の一員なんだから、思ったことを言うべきよ。もちろん怒ったりとかそういうのはダメだけどね」

枝里子の発言は正当なものだった。

そして枝里子がここまでしっかりと怒ってくることに衝撃を覚えていた。基本的に何をするにも受け入れてくれていた枝里子がしっかりと強い言葉で否定をしてきている。それだけ自分は間違ったことをしているのではないかと感じた。

「不満があったのは分かってる。でもあなたはそれを変えようとした?その努力はちゃんとやったの?」

枝里子の言葉が胸に刺さった。水が合わないと思っていた。しかし自分で合わせようとはしていなかった。全てが受け身になっていた。

まずは自分から行動を起こそう。そのためにまずは謝罪をしないといけない。自分の気持ちを伝えられるかどうかは分からないし、聞いてくれるかどうかも怪しいところだ。しかし何もせずに辞めるのは枝里子の言う通り逃げだ。

博巳は枝里子に軽く頭を下げた。

「……ありがとう。まずは皆や課長に謝罪をするよ。俺は大事なことを忘れてしまっていた」

博巳がそう言うと枝里子は満足そうに頷いた。