辞職を決めた夫への問いかけ
家に帰り、全ての事情を説明すると、枝里子は驚いたような呆れたような顔をしていた。
「それで自宅謹慎になるってことね……」
「……ああ、悪いな」
「……全然気にしないでいいのよ」
枝里子の声色から博巳を気遣ってくれているのが伝わってくるたび、博巳は余計に惨めな気分を感じずにはいられなかった。
「仕事はもう辞めるよ。もともと定年だったんだし、続ける必要なんてなかったんだ。この辺りが潮時だろう」
謹慎の通知を受けたとき、博巳は心のどこかで胸をなで下ろしていた。
もう職場に行かなくて済むと思って安堵したのだ。ずっと水が合わないと思っていたが、今回の一件でより一層強くそう感じるようになった。ストレスには強い方だと思っていたが、これ以上総務部にいてしまうと内臓をやられてしまう。そうなる前に辞めるのが得策だと博巳は考えた。
「……それでいいの?」
枝里子に聞かれて博巳は苦笑する。
「ああ、いいんだ。もう俺のようなロートルは必要ないんだ。俺がいないほうが皆、楽しく伸び伸びと仕事ができるらしいし。悪影響を与えてまであの席にこだわる必要はないからな」
「そうやって逃げるの?」
枝里子の言葉に博巳は驚く。枝里子は真面目な顔でこちらを見ていた。
「あなたのやったことは良くないところもあったと思う。それはあなただって分かってるんでしょ?」
枝里子に言われて博巳はうなずいた。
