減額率が下がり繰上げしやすくなっていた

かつて繰上げ減額率は1カ月につき0.5%だったところ、2022年4月改正で1カ月につき0.4%に改正されました。つまり、改正で減額率が下がったことで減額されにくくなっています。減額率の改正により、60歳0カ月で繰上げした場合、繰上げしなかった場合と生涯の受給累計額で逆転する時期が76歳8カ月から80歳10カ月になりました。

また、現在働いていて厚生年金加入中の恵美さん。月給20万円程度、賞与なしだったため、在職中に在職老齢年金制度によって年金はカットされない程度の給与水準でした。これを知って「80歳10カ月で逆転ならいいか。働いても年金はカットされないし、年金と給与が両方そのまま受け取れそう」と思い、また、「自分の年金を自分が元気で使える時に使っておこう」と考えるようになります。

夫の年金額への影響は?

しかし、ここで気になるのは夫の年金。会社員を40年以上続けていた夫の康之さんは65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金を既に受給しています。さらに康之さんの老齢厚生年金には配偶者加給年金が年間41万5900円(2025年度)加算されています。この加給年金は本来、康之さんが65歳になってから恵美さんが65歳になるまで加算されることになり、年齢差が10歳あることから10年加算されることになります。

ここで恵美さんが自分の繰上げをすると、康之さんの加給年金はどうなるのでしょうか。なくなってしまうのでしょうか。恵美さんも康之さんもそのことが気になり、恵美さんが60歳になる前に、夫婦で繰上げ制度やその手続きのことも含めて年金事務所で聞くことにしました。

窓口では職員から「恵美さんは今在職中でこのまま60歳以降も働き続けるということですね」と今後の就労について確認されます。65歳になるまでは働く予定だという恵美さんに対し、職員は「恵美さんの場合、60歳0カ月で繰上げ受給の請求をすれば大丈夫ですね。繰上げをして、康之さんが引き続き加給年金を受けたいというのであれば、その時に繰上げの手続きをしてください。1カ月でも繰上げの手続きが遅れるとダメです」と伝えます。

どうやら60歳誕生月に繰上げの手続きをしないといけないようですが、その理由はどのようなものなのでしょうか。

●なぜ1カ月の違いが大きな影響をもたらすのか――その驚くべき仕組みを後編【「1カ月でも繰上げ請求が後になると…」年金事務所の職員が明かす、夫婦の年金を守る意外な条件】で詳説します。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。