<前編のあらすじ>
40代の梨花さん(仮名)は、父親の平三さん(仮名)がNISA口座での株取引にのめり込み、老後資金を失っていく姿に不安を感じていた。
定年退職後、穏やかな日々を過ごしていた平三さんだが、NISAという非課税制度に興味を持ったことから投資を始め、次第に株価の変動に一喜一憂するようになっていく。「株価は過去最高なんだろ? 税金のかからないで儲けられるNISAがあるんだから、使わなきゃ損じゃないか」と話す父親の老後資金は、短期間で2000万円から200万円弱まで減少していたのだった。
●前編:【「株価は過去最高なんだろ?」40代娘が目撃した高齢父の悲劇…穏やかな定年生活が一転、老後資金2000万円が底をつく恐怖】
NISAなら必ずプラスになるわけではない
「これが私の知る全てです。どうしたらいいんでしょうか」
目の前の梨花さんは藁にも縋る思いで私に相談へ来た。冷や汗だろうか、25度の室温にも関わらず額に滴をにじませている。
「はっきり言って、すでに失ったお金をどうこうすることは不可能と言ってもいいでしょう」
私が正直に現実を告げると梨花さんは覚悟をしていたように目をつぶり、静かに俯き、頷いた。
銀行員に騙されたりして購入したものならともかく、認知症でない意思能力・判断能力がしっかりした人がネット証券を利用して購入したものは、取り消しなどすることは現実的ではない。
近年ではスマホの普及からインターネットを通じて若者顔負けの知識や敏感な感性を持つ高齢者が増えた。そんな彼らは情報収集を怠らない。老後の暇つぶしやここ数年続く株高の影響などで投資について考え、資産形成を図ろうとするケースは珍しくはない。
NISAは確かに定年後からでも老後における資産形成を後押しする制度だ。しかし、投資におけるリスクから守ってくれるものではない。ある意味ここがNISAという制度の限界だ。
だが、そうはいっても現実は変わらない。
私は梨花さんを通じて平三さんと電話で話をした。そして、翌週、再び事務所で梨花さんと平三さんと3人で対面した。そこで私は今後の投資についてアドバイスをした。