妹のひと言で関係は決裂
手紙が届いてから数週間後、美香さんが恵子さん宅に訪れた。
「初めまして」
そう発した彼女の所作はとてもきれいで礼儀正しく、非常に好感を覚えたという。そこからはせきを切ったように言葉があふれ、2人は空白の時間を埋めていった。
しかし、「さて、本題だけど……」と恵子さんが切り出したところ、次の美香さんの言葉で状況は一変する。
「私は妹として、お姉さんと同様の立場から父の遺産を分けてもらいたいのです」
恵子さんは、驚きとともに怒りを覚えた。
「父とほとんど一緒に過ごしたこともない、最期を看取ったわけでもない、そんなあなたが……? ずうずうしいと思わないの?」
それに対して美香さんが反論する。
「でも法制度はそうなっていますから。感情と法律は別ですよ、お姉さん」
そう、この時既に前述のように法改正された後だった。兄弟姉妹の間においては自分が婚姻内にある父母から生まれた子であるかどうかは関係ない。故人の子であればその出生に関係なく、1人の子として平等に扱われる。当然、恵子さんと美香さんも平等であり、相続分はそれぞれ2分の1ずつとなる。
「その時は正直、妹の言葉にぐうの音も出ず何も言えませんでした。今思い返すと腸が煮えくり返ります」
当時のことを振り返りながら恵子さんは怒りをあらわにする。
美香さんは用意周到で、法改正がなされたことを示すニュース記事とそれを解説する弁護士のサイトをスマートフォンで見せてきたようだ。
法律面ではどう頑張っても勝てる見込みはない。素人の恵子さんにもそれは理解できたという。
その日、恵子さんはまともに会話できないほどに混乱していたようで、美香さんの方から「落ち着いてくださいお姉さん。後日また話をしましょう」と提案があり、解散となった。
●1500万円をめぐる姉妹の攻防は、どのような結末を迎えるのでしょうか。後編【「父の子はずっと私1人だと思っていた」突然現れた“妹”との相続争い、遺産3000万円の行方は…】では、法律を武器にする妹と、感情で訴える姉の最終対決の様子をお伝えします。
※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。