<前編のあらすじ>

50代の冨浦さん(仮名)の父・史郎さんは、かつて幼馴染の園田さんに土地を無償で貸していた。「使わないから貸してあげるよ」という軽い気持ちで始まった口約束だったが、相続をきっかけに深刻なトラブルに発展する。

ある時、園田さんの息子・匠さんが土地に勝手にフェンスや建物を設置し始めた。この行動に“自分のもののように使う意思”を感じ取った冨浦さんは焦り、「あの土地を返してくれ」と求めた。しかし匠さんは「何を言っているんだ?」と答えるばかりで取り付く島もなかった。

●前編:【「このままでは取られてしまう」父から引き継いだ土地が“乗っ取り”危機に…相続人の息子が陥った絶対絶命のトラブル】

匠さんが主張する時効とは

冨浦さんは根気強く匠さんと話す。お互いの母親や事業の関係者、従業員、父親たちの共通の知人など周囲を巻き込んで説明し、匠さんから「たしかに借りていた土地だったみたいだな」と納得の言葉を引き出した。

しかし、匠さんは時効による所有権取得を主張してきた。

「あの土地は昔から親父が使ってきた。そして今も俺が引き継いで使い続けてきている。それなら時効によって所有権をもらう」

さて、何やら難しくなってきたので制度の解説を入れよう。日本法には、一定期間、他人の土地を継続して占有し、かつそこに「所有の意思」を伴えば、時効によって土地の取得が認められる制度がある。

通常、この時効は10年(過失なく借り物だと知らない場合)ないし20年(借り物だと知っている、知らないことに過失があるような場合)の占有によって認められるそして、相続によって土地を引き継いだ場合、被相続人、すなわち園田さんの期間も含めて時効の成立期間を計算することができる。それゆえ、匠さんは父・園田さんの占有期間も含め、「20年以上も使ってきたから自分のものだ」と時効を主張したのである。

「悪いが俺は訴訟も辞さないぞ」と強硬姿勢の匠さんを相手に、冨浦さんは「でも……だって……」と力なく呟くことしかできず、その日は逃げるように帰宅した。そこから数週間は匠さんのことを考えないように現実逃避していたとのことだ。