「あの土地は貸していたはずだったんです……。それがまさか、勝手に権利を主張されるなんて思いもしませんでした」
そう語るのは、冨浦さん(仮名、50代)だ。かつて彼の父・史郎さんは、ある土地を園田さん(仮名)に無償で貸していた。しかし、年月が過ぎ、貸していた土地は知らぬ間に園田さんの息子・匠さんが自己所有の土地として管理していた。
今回は土地の無償貸借から相続を経て始まった、ある相続人同士のトラブルを解説しよう。
30年前の口約束が悲劇の始まりに
かつて史郎さんは郊外に持っていた小さな土地を遊休地として所有していた。その場所はとある田舎のさらに僻地にあり、なかなか借り手も見つからず頭を悩ませていた。
そこで近所に住む建築業を営む園田さん(故人)が、資材置き場に使える土地を探していると耳にした。史郎さんと園田さんの間には20年以上の関係があり、お互い持ちつ持たれつなところがあった。その関係を前提に史郎さんは園田さんに対して「使わないから貸してあげるよ」と、無償で土地を貸し出すことになったというのだ。
両者の間では「資材を置く」「資材の移動は自由」「賃料は発生しない」といった内容が口頭で約束され、フェンスもなければ契約書もなかった。周囲も長年、資材置き場としてその土地が利用されていることを知っており、特に問題視されることはなかった。
だがしかし、そんな平穏な日々に問題が起こる。そう、それが相続だ。
