<前編のあらすじ>

50代管理職の友梨佳は、中途採用で入社した新人・梨乃に見積書整理を依頼した。「今日中に」と伝えたが、梨乃は仕事を残したまま定時で退社。代わりに他の部下たちが残業してカバーすることになった。

翌朝、友梨佳が梨乃を問いただすと、梨乃は「求人票に残業ほぼなしと書いてあった」と主張。前職で無理をしたため、残業前提の働き方は避けたいと告げ、「働き続けるのが厳しい」と退職をほのめかした。

夕食後、夫に相談した友梨佳は、夫が過去に業務を棚卸しして残業前提の働き方を変えた経験を聞く。「人を変えるより、仕組みを変えた方が早い」という言葉に気づきを得た友梨佳は、業務改革に取り組む決意を固めた。

●【前編】「聞いてた話と違う」50代管理職が直面…仕事を残して定時退社する“残業キャンセル界隈”の新人の本音

時間の棚卸作業を実施

朝、友梨佳は部署全体を集めて、短く告げた。

「今週は“時間の棚卸し”をやります。1人ひとりの作業を可視化して、ムダや偏りを見つけたい。協力お願いします」

背後の壁に、大きなホワイトボード。そこに貼られたカンバンは、「依頼」「作る」「レビュー」「納品」の4列に分かれている。メンバーには付箋とペンが配られ、各自のタスクを時系列で貼っていく形式にした。

「わざわざ繁忙期にやらなくても……」

「これ、余計に残業増えるパターンんじゃ……」

最初は部下たちも戸惑いがちだったが、2日もすれば変化が出てきた。

色とりどりの付箋が列を移動し始め、全体の流れが浮かび上がる。すると、途端にいくつかの“おかしな場所”が目に入った。毎朝30分にわたる定例ミーティングは、発言の大半が報告の読み上げ。各承認には3つのハンコが必要で、その順番待ちがボトルネックになる。資料表紙の色や余白の調整に、想定以上の時間が割かれていた。メールの宛先ミスで差し戻された案件が、カンバン上でもう一度「依頼」列に戻っていた。何より、午後5時を過ぎてから「今日中でお願い」と飛び込む付箋が、目立って多い。

「気付いてたけど、こうして並べると、さすがに無理あるね……」

若手の佐久間がぽつりと漏らす。笹本も苦笑しながら、「定例で話してたこと、全部チャットにすれば済むかも」と続けた。