“古い知識”が招いた大誤算
「頭が真っ白になり、もう何もかもどうでもよいとすら思ってしまいました」
恵子さんは美香さんから連絡が来た時のことをそう振り返る。もはや何も感じず、淡々と美香さんとの相続を進めようと思っていた。
「ただ、そんな私にも1つ思い出したことがあります」
その内容とは「婚姻外の子がいると、その子は婚姻内の子と比べて相続分が半分となる」というものだった。そのため彼女は、記憶の通り「美香さんの相続分は自身の半分」ということを想定して動いていた。
遺産の額はおよそ3000万円。美香さんに1000万円ほど渡すことにはなるだろうが2000万円は自分が相続できる。これだけあれば十分に老後資金として活用できるうえ、日々の生活にゆとりをもたせるための生活費としても活用できるともくろんでいた。
しかし、当時は平成。これまでの価値観も常識も大きく変わった時代だ。それを象徴するかのように、相続において最高裁は「婚姻外の子の相続分は半分とするような規定が憲法に反する」と判断していた。
つまり恵子さんの知識は古く、相続当時、既に民法は改正されていたわけだ。当然、婚姻内外の区別なく、すべての子の相続分は平等だ。恵子さんと美香さんの相続分も平等になる。
恵子さんは悲しそうに語る。
「この時の私はこの重大な法改正について知らないまま、相続の話を進めようとしていたのです」
大きくため息をつく彼女の目にはうっすら涙が浮かんでいた。