救護スペースに運ばれ
念のためと案内された救護スペースで傷口の消毒をしてからレジャーシートに戻ると、さつきの大笑いが慎一を出迎えた。
「慎ちゃん、1番目立ってたよ」
「うるさいな」
坊主頭とクラス担任が奮闘したものの、リレーはけっきょく最下位で終わった。もちろん敗因は改めて考えるまでもなく慎一だった。
「清弥は?」
「次のダンスがあるから、入場ゲート行ったよ」
「そうか」
顔を合わせなくて済んだことに少しだけ安堵する。応援してもらっておきながら、あの体たらくではきっと落胆させたに違いないと思った。
「清弥、心配してたけど、かっこよかったって」
「は? そんなわけないだろ。変に慰めるなよ」
「本当だよ。あとで聞いてみな。がんばってるパパ、かっこいいって言ってたから」
まもなく、入場ゲートから清弥たちが出てくる。手には青と黄色のボンボンを持っている。スマホを構えたさつきが、ふと思い出したようにこぼす。
「清弥ね、友達と同じ小学校に通いたいんだって」
「友達なんて、どこでだって作れるだろ」
「そうだけど、今の友達が大切なんだよ」
清弥はボンボンを振りながら、周りの子たちと腕を組んで回ったり、円になったりして踊っている。友達に囲まれて楽しそうに踊る清弥の表情は、慎一が知らないものだった。
「悪くないでしょ。公立も。そりゃ私立の学校でエスカレーターのほうが楽かもしれないけどさ、地域の学校だから学べることとか、できない経験もあるんだと思うよ」
慎一はこれまで清弥のためだと思って、進学のことなどを考えてきた。だが清弥がそう望んだわけではなかった。むしろ慎一は、ただ自分の考えを一方的に押し付け、清弥にとって大事なものを奪おうとすらしていたのかもしれない。
「まあ、悪くはないな」
慎一は頭上を仰いだ。見上げた青空は少し滲んでいるのに鮮やかで、少しだけ目に痛かった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。