パパ―! がんばれー!

平均台に飛び乗り、広げた両手でバランスを取りながら通過する。軽快にカーブを走り抜け、地面を這いつくばって四隅を抑えられたネットの下をくぐる。

フラフープの輪投げで2位のチームがまごついている間に追いついた慎一だったが、これが思いのほか難しい。何度か失敗したあとで成功したとき、2位から最下位までの3人はほとんど横並びだった。

「パパー! がんばれー!」

歓声が聞こえる。さつきに抱きかかえられながら懸命に叫んでいる清弥の姿が目に入る。慎一は腕を大きく振って加速した。

3人で競り合いながらカーブに入る。お互いの肩がぶつかり合いそうになるような距離感で、少しでも前へ出ようとせめぎ合う。何をこんなに必死になって走っているのだろうか。慎一は頭の片隅でほんの一瞬そんなことを思ったが、脈打つ鼓動にすぐに雑念は掻き消されていった。

間もなくカーブを抜ける。慎一に向かって手を振っていた坊主頭が見える。慎一は2位に上がっていたが、油断はできない。1秒でも速く、1センチでも前で、バトンを渡さなければいけない。

そう思った瞬間だった。

急に視界から坊主頭の姿が消えた。最後に見えたのは灰色の地面で、衝撃とともに慎一は目をつむらざるを得なかった。

歓声と落胆が入り混じる。

「清弥くんパパ! 立って!」

声がして、自分が転んだのだと気がついた。もちろん他のチームはとっくにバトンを渡し終えているから、慎一は最下位に転落していた。擦りむいた膝や肘が痛んだ。だがそれ以上に恥をかいたという感覚が強かった。本当は今すぐにでもレースを放棄し、帰りたい気分だった。だが慎一はよろよろと立ち上がり、残り数メートルを進み、坊主頭にバトンを渡した。