頑張ります
第一走者が位置に着き、ピストルの音とともに走り出す。おなじみの軽快な音楽が流れ、子どもたちの歓声が飛び交った。調子に乗って、子どもたちに手を振る親がいれば、浴びる注目を恥ずかしそうに受け止めながら懸命に走る親もいる。思いのほか母親のほうが参加している場合も多く、慎一はさつきにハメられたのだと遅ればせながら気づく。
清弥のクラス――つまり慎一のチームは4チームのうち、2番目につけていた。大きなミスもなく、かといって飛びぬけて速い人がいるわけでもなく、堅実にレースをこなしているようだった。
慎一の走順は後ろから3番目。後ろには例の坊主頭とクラス担任が控えている。無難にやり過ごして終えようと思っていたそのときだった。
慎一のふたつ前の走者が輪投げを決められず、何度も失敗しているうちに3位のチームに抜かれた。最下位のチームとはまだ距離があるが、チームのなかでは落胆の声が上がった。
「清弥くんパパ。頼みますよ! 絶対優勝しますからね!」
クラス担任に肩を叩かれる。
「いい位置で持ってきてもらえりゃ、俺がぜってぇに逆転してやっからよ」
坊主頭は明らかに30代そこそこで年下だったが、何のためらいもなく気安く話しかけてくる。
「はあ、がんばります」
空気を壊さないようにガッツポーズをしてみせて、レーンに出る。今はひとつ前の走者が懸命に走っているが、全体的に手際が悪く最下位のチームとの差はじりじりと詰まりつつあった。
輪投げを終え、前の走者がカーブを抜けてくる。慎一は手を振り、小走りで走り出し、バトンを受け取った。