実家へ戻った妹
クリスマスシーズンになり、イルミネーションで美しく飾られるようになった街を、仕事帰りの美緒は歩いていた。ふと歩く若い親子連れとすれ違い、妹の詩織とめいの舞亜のことを思い出す。
あれ以来、会うことはおろか連絡すら取りあっていない。華やかだった詩織のSNSアカウントはとっくの昔に削除されているが、美緒には関係のないことだった。
かばんのなかでスマホが震えた。電話の相手は母だった。
「どうしたの?」
「久しぶり。元気にしてる?」
「まあぼちぼち」
「そう。今年のクリスマス、美緒はどうするの?」
「何、嫌み? どうもしないよ」
美緒は不機嫌さを隠しもせず声を上げたが、母はなぜかうれしそうだった。
「それじゃあちょうどよかった。先週くらいにね、詩織が舞亜ちゃん連れて戻ってきたのよ」
「あ、そうなんだ」
言いながら、美緒はほっとしている自分に気づく。関係ないとは言っても、詩織はどうしたって縁の切れない、この世界でたった1人の妹だった。
「せっかくでしょう。だから今年はみんなでクリスマスパーティーでもしようかって、お父さんが」
「ふーん、そっか。クリスマスパーティー」
「ね、美緒もたまには帰ってきなさいよ」
「考えとくよ」
美緒はそう言って電話を切った。見上げた夜空には、都会では珍しい星々がそっと光っていた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。