<前編のあらすじ>

美緒(34歳)は、1つ年下の妹・詩織(33歳)にコンプレックスを感じていた。

なんでも要領よくこなし、きれいで明るくて人気者。経営者の旦那と結婚し、SNSでは華やかな生活を送っている。そんな妹とは対照的に、美緒は地味ながらコツコツと真面目に生きてきた。

仕事から帰ると、家の前に妹の詩織が立っていた。理由を聞くと、夫が経営している会社がうまくいっていないのでお金を貸してほしいと頼んでくる。

100万ほどを工面した美緒だったが、詩織が帰ったあとに、その夫が経営しているショップのURLを確認すると「ページは見つかりませんでした」と表示された。詩織はうそをついて姉から金を借りたのだろうか……?

●前編:「お姉ちゃん、500万貸して」港区タワマン住みセレブ妻が、地味OLの姉に頭を下げた「とんでもない理由」

義弟の会社はとっくに倒産していた

「え、は? 意味分かんないんだけど」

美緒は1人、殺風景な部屋のなかで頭を抱えていた。

検索をかけて調べると、詩織の旦那のアパレル会社はとっくに倒産していることがすぐに分かった。

ならばつい小一時間前に振り込んだ100万円は何だったのだろうか。

すぐに詩織に連絡を入れたが、既読すらつかなかった。

美緒はもんもんとしたまま平日をやり過ごした。判を押した毎日は、セレブな妹の不可解な行動で揺らいでいた。

土曜日の朝、詩織が住む港区の一等地にあるタワーマンションへ向かう。インターホンを3度押してしばらくすると、

「お姉ちゃん……? どうしたの、いきなりくるなんてらしくないじゃん」

「連絡はしたよ。詩織が返事してこなかっただけ」

2人はインターホンを挟んで黙った。美緒は深くため息を吐いた。

「開けてよ、ここじゃ寒いし」

「いやでも、部屋片付いてないから」

「いいよ。掃除くらい手伝うし。それとも見せられないものでもある? 旦那さんの会社、倒産してるみたいじゃん」

声は聞こえないし、顔も見えない。だがインターホンの向こう側で詩織が息をのんだのが分かった。

一拍置いて、ガラス扉がゆっくりと開く。インターホンのスピーカーから、「入って」と詩織のとがった声が聞こえた。