由美穂の味方たち
「いい加減にしろよ!」
事務所の入り口に、修司が立っていた。
どうやら別の従業員が修司を呼びにいったらしく、慌てて駆け付けた修司は肩で息をしていた。
「なあ母さん、何で由美穂にそんなことを言うんだ⁉ 由美穂は仕事も家事もしっかりやってくれてるだろ! 何にもやってないあんたにそんなこと言われる筋合いはねえんだよ!」
修司に激怒され、愛子は目が点になっている。
「わ、私は、みんなのために言ってあげて……」
「うるさいっ! 皆もあんたに閉口してるんだ! 家を追い出されたくなかったら、もう黙っておいてくれ」
「な……っ、母親に何てこと言うんだい。そんな恩知らずなこと……」
愛子は助けを求めるように、従業員たちの表情を見回した。しかし誰もが修司の言葉に同調し、愛子から視線をそらした。
愛子の味方は1人もいない。それを理解するには十分だった。
愛子は唇を震わせ、何かを言おうとしたが言葉が出ず、そのまま黙って事務所を出て行ってしまった。もちろん誰もその愛子の後を追うことはなかった。
「大丈夫か?」
修司は心配そうに声をかけてきた。
「うん、大丈夫」
由美穂はそう答えた。他の従業員たちも心配そうな顔をしている。
「本当か? 無理せず、今日も休んでいいんだぞ」
「ううん、本当に大丈夫よ。みんな、ありがとね」
由美穂は皆にそう伝えた。うそではなかった。本当に重かった体が軽くなり、活力が湧いた。
とにかく皆のために仕事をして貢献したい。由美穂の気持ちはそれだけだった。
その日の一件以来、愛子が工場に顔を出すことはなくなった。
修司や従業員たちはちゃんと自分を見てくれて、味方でいてくれる。そう思うだけで、何倍も力が出るような気がしていた。
これからも皆で力を合わせて、工場を切り盛りしていこうと由美穂は一層仕事に励んだ。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。