薄暗い公園の頼りない照明に照らされて、息子の圭太が泣いている。その様子にいら立って、宗次は金属バットで地面をたたく。
「圭太、いつまで泣いているつもりだ⁉ ボールを取れるまでは帰れねえぞ!」
家から近くの公園。周りに人の姿はもうない。それでも宗次はバットとボールを強く握りしめていた。
しかし5歳になったばかりの圭太は泣いて動こうとしない。
この公園は電灯はあるが、それでも暗い。練習できる時間はもう限りなく少なかった。
「早くグローブを持って構えろ!」
宗次は怒鳴るが、圭太はぐずり続けた。地面には子供用のグローブが転がっている。
ノックで打ったボールがイレギュラーバウンドをして、圭太の顔に当たった。それが痛くて、泣き出したのだ。
宗次はイライラしながら、圭太に早くグローブをはめ直すように怒鳴った。こんな悠長な時間を過ごしている暇がないことを、圭太は分かってないのだ。遊びでやっているわけではないのに。
宗次はかつて球児として、甲子園に出場した。しかし夢だったプロ野球からの声はかからず、一般企業に就職した。社会人野球を続けたが、22歳のときにけがで思うようなプレーができなくなって引退をした。
みやびと出会って結婚したとき、もし男の子が生まれたら、絶対にプロ野球選手にしてやろうと決めていた。
そのために毎日、時間の許す限り、圭太に野球の指導をしていた。
「ほら、圭太! グローブを持ちなさい!」
宗次がそう言うと、圭太は諦めたようにグローブを持って、腰を落とす。そこに向かって宗次は強い球を打ち付けた。