圭太のいないグラウンド
圭太が家を出てから、宗次は空気の抜けた風船のように気の抜けた生活を送っていた。
食事指導も野球の指導もする必要がなくなると、日々、何をしていいのか分からなくなった。
みやびはそんな宗次の様子に明らかに安堵していて、自分がどれだけみやびに苦労をかけていたのかを自覚し、胸が痛くなった。
それ以来、あまり野球の話題を家で出すこともなくなった。
しかし圭太は高校ではかなり苦戦をしたようで、1年の夏も2年の夏もスタメンはおろか、ベンチ入りすらできなかった。
それでも宗次の圭太への期待は揺るがなかった。なぜなら、宗次自身が3年からレギュラーの座をつかみ、甲子園で活躍をしたという経験があったかからだ。
そして2年目の秋を迎える。3年生は引退し、圭太たちが最年長になる時が来た。これが最後だと思うと、宗次の中で圭太に対する思いがどんどん強くなる。
あるとき、圭太に黙って、みやびと2人で練習試合を見に行った。
もうすぐ秋季大会を迎え、そこで結果を残せば、夏のレギュラー入りは見えてくる。だからこそ、練習試合はアピールの場として大事だと思った。
試合のある校庭に到着し、選手たちに見えないような場所で試合を見守った。
そこで宗次は違和感に気付く。それを口にしたのはみやびだった。
「あれ、圭太はいないのかしら?」
「そ、そうだな」
宗次は不安を覚えた。けがでもしたのかもしれない。
そこで同じく観戦に来ていた人たちの中に和田の姿を見つけ、声をかけた。
「和田さん、お久しぶりです」
和田は野球部のOBで後援会の会長を務めている。宗次たちを見て、気まずそうに顔をそらした。
「あの、圭太はどうかしたんですか?」
「そ、そうか、聞いてらっしゃらなかったんですね……」
「……何かあったんですか?」
和田は唇を動かして、何かを迷っていたが、意を決して口にした。
「圭太くん、退部したそうなんですよ」
その瞬間、宗次の頭は真っ白になった。
●圭太は親に黙って野球部を退部していた。その真意は……? 後編【「子供の分際で…」スポーツ推薦で寮生活をしていた息子が親に黙って退部した「切なすぎる理由」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。