義母にはハッキリと物が言えない夫

「こんな調子でね、お義母(かあ)さんが最近ひどいのよ」

寝室で声を潜めて、由美穂は相談をする。

「……そうだよなぁ。最近、ちょっとひどいよなぁ」

修司の反応は余り良くなかった。藤次のときはすぐにキツく注意をしてくれたのだが、今回はそういうわけにはいかないらしい。

「父さんが亡くなって、自分がしっかりしなきゃって思いすぎて、空回りしている感じだよな」

修司は奥歯に物が詰まったような言い方をする。

それは絶対にないと反論したかった。しかし修司は愛子に頭が上がらないのも知っていた。だからこれ以上、板挟みにしてしまうのが申し訳なく、何も言い出せなかった。

心身の疲れが限界に

結局、事態は現状維持のまま進んでいく。

家では愛子からいびられ、職場では慣れない社長業をする修司を支えないといけない。そんな風に追い詰められ、落ち着かない日々が続き、ついに由美穂の心身は限界を迎えてしまった。

高熱で体を起こすことができず、初めて仕事を休んだ。日々のストレスが原因だった。修司もそのことを分かってくれていたので、優しい言葉をかけて寝かせてくれた。そのまま3日間寝込み、4日後にようやく布団から起き上がれるようになった。

とはいえ、体はまだだるかった。熱は下がったが、多少頭痛も残っている。喉が渇いた由美穂が身体を起こして台所に向かうと、居間では愛子が大音量でワイドショー番組を見ていた。愛子は由美穂の存在に気付き、眉間にしわを寄せる。

「熱があるくらいで休めるなんて、いいご身分だね」

「ご迷惑をおかけしてすいません。あの、仕事も助かります」

愛子はふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。由美穂は水で喉を潤し、また寝室に戻った。

天井を見つめながら、愛子の言葉を反すうしていた。いいご身分という言葉が突き刺さっていた。普段なら聞き流せているのだろうが、体調が弱っている分、食らってしまった。胸を張るわけではないが、自分なりにやれることは精いっぱいやっている。それなのに、休んだだけで、なぜあんなことを言われないといけないのか。

悲しさと悔しさで由美穂は涙を流した。しかし由美穂が泣いていることに、誰も気付いてはくれなかった。