由美穂は6時に目を覚ます。隣で寝ている夫の修司を起こさないようにゆっくりと布団を出る。まだ少し朝冷えの残る台所に向かい、義両親である藤次と愛子、そして自分たち夫婦、4人分の朝食を手際よく作っていく。

こんな日常にも由美穂はいつの間にか慣れてしまっていた。

由美穂と修司は元々、東京で暮らしていた。それぞれ別の会社で働いていたが、修司が30歳になったときに義両親が経営している工場の後を継ぐためにこの家に引っ越してきた。

もちろん由美穂も仕事を辞めざるを得なかった。今は経理の仕事を手伝いながら、工場経営を手伝っている。

従業員たちの給料計算のほか、製造にあたってのコストなども経理で管理する。元からこういう細かい計算は得意だったし、仕事は嫌いではない。工場自体も、先代から長い付き合いのある取引先も多く、盤石とは言わないまでも安定した収益を上げていた。

生活は順風満帆と言って差し支えはないだろう。しかし、不満がないわけではない。

「由美穂さん、おはよう」

朝食を作っていると、愛子が起きてきた。

「おはようございます。もうすぐ朝ご飯、できますので」

「どうせ昨日の残り物でしょ」

愛子は無表情でそう言うと、お気に入りの座椅子に座りテレビをつけた。楽しげな女子アナウンサーの声が大音量で響く。由美穂は愛子に聞こえないよう、小さくため息を吐いた。

何がそんなに気に入らないのか知らないが、愛子はとにかく由美穂に冷たい。慣れたつもりではいるが、こうも毎日変わらず突っかかられるのは小さくないストレスだった。