明らかに由美穂を女として見ている義父

由美穂が温めた肉じゃがを皿によそっていると、次に義父の藤次が起きてきた。

「今日も早いね。いい匂いだ」

藤次はニコニコしながら、由美穂に声をかけてくる。愛子と違い、基本的に朗らかな藤次はいつも気さくに接してくれる。

「おはようございます。もうすぐですので、座っててください」

しかし藤次は動かなかった。

「いやいや、1人で持つのは大変だろう。私も手伝うよ」

藤次は1歩、由美穂との距離を詰めてくる。

大丈夫ですよ、と由美穂は笑顔を崩さずに断ったが、藤次はお構いなしに手を伸ばした。

「こんな小さい手で、4人分の料理なんて持てるわけないだろう。いいからいいから」

藤次の手が、肉じゃがを盛り付けた皿を持つ由美穂の手をなでるかのように、そっと添えられる。由美穂は反射的に身体に力を込める。それでも笑顔だけは辛うじて保ち続けた。

「お義父(とう)さん、私は大丈夫ですから」

由美穂は藤次の手を軽く振り払う。藤次はそうかいと素直に引き下がり、愛子が座ってテレビを見ている居間へと向かっていった。由美穂は何度か深呼吸を繰り返し、握られた手を洗った。用意した料理を食卓に並べ、寝室で寝ている修司を起こしてから、そろった4人で朝食を取る。

朝から最悪の気分だった。

藤次は出会った頃から、由美穂を気遣い、よく声をかけてくれた。しかしその言動や視線が、息子の嫁に向けられるものとは明らかに性質が違っていることに、由美穂は気づいていた。

藤次のそのような言動は、一緒に住むようになってからエスカレートしている。今朝のように体を触ってくるようになったのだ。握られたのが手ならまだましなほうだ。すれ違いざまにお尻を触ってきたこともあるし、由美穂が風呂から上がったときに扉の前で鉢合わせしたこともある。

藤次のいやらしい言動がどんどんひどくなっていくことに由美穂は不安を覚えていた。これなら、愛子のように冷たくしてもらった方がマシだった。

修司に相談するべきなのだろう。けれど父親を尊敬している修司の気持ちを踏みにじってしまうようで、なかなか言い出すことができずにいた。

テレビ画面の真ん中では、ニュースキャスターがしばらく続く長雨を伝えている。