姉の仰天行動と父の最期
それから登司は即入院した。ただすぐに痛みは引いたようで、安静にしておけば大丈夫とのことだった。
安堵した明理は着替えを取るために帰宅。するとリビングからヒステリックな声が聞こえてきた。明理は急いでリビングのドアを開けた。
「どうしたの⁉」
リビングでは麻央と由佳理が取っ組み合いのけんかをしていた。なぜか由佳理は麻央の手にあるスマホを取ろうとしているように見えた。
取りあえず明理は2人の間に入り、場を収める。
「何よ⁉ 何があったの⁉」
すると麻央は灰皿を指さす。灰皿の上に黒くこげた何かが置かれている。
「これ、何?」
「遺言書。この人、お母さんが病院に行ってるときにこれを燃やしたんだよ」
そう言って麻央は携帯の画面を見せる。そこには由佳理がライターで封筒を焼いているところの様子が写真として収められていた。
それを見て、由佳理が麻央からスマホを取りあげようとしていた理由が分かった。その瞬間、明理は頭が真っ白になるほどの怒りを覚えた。
「何やってんのよ、あんた!」
「だ、だって、このままだと、遺産が……!」
「父親が苦しんでいるっていうのに、こんなときにもお金の心配していたの⁉ あんた、本当にサイテーね!」
明理のけんまくに由佳理は気おされる。
「あのね、私ね、借金があってね……」
「そんなの知らないわ! さっさとこの家から出て行け!」
「でも、遺産は、遺産は……?」
「そんなの関係ない! どうしてお父さんの気持ちを無碍(むげ)にするようなことをするの⁉ 4分の1を渡そうとしてくれてるだけでもありがたいと思いなさいよ!」
すると、オロオロしながら、由佳理は立ち上がる。
「で、でも……!」
「今すぐにこの家から出て行って!」
明理の言葉に反応して、由佳理は逃げるように家から出て行ってしまった。怒りが収まりきらない明理の背中に麻央がそっと手を添えた。
「……ああ、麻央。大きな声だしてごめんね」
すると麻央は首を横に振り、親指を突き上げた。
「ううん、グッジョブ」
その言い方に明理は思わず笑ってしまった。
「どうするの? このまま許すつもりないよね?」
「当たり前でしょ。すぐにお父さんに相談するから。あの人に1円だって遺産は渡したくないわ」
そうなると、由佳理との衝突は避けられない。それでも明理は逃げる気持ちは一切なかった。
その後、父が遺言の執筆などを相談していた弁護士から、「遺言を勝手に破棄すると相続権を失う」のだと教えてもらった。明理はすぐに手続きを行い、由佳理を相続から排除し、さらに絶縁を言い渡した。
遺産のあてを失った由佳理たちは借金取りに追われるようになったが、明理は彼らの手助けをするつもりは毛頭なかった。
それからしばらくは、家族3人で幸せな毎日を送れた。
そして登司は安心をしたのか、安らかな顔であの世へ旅立っていったのだった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。