<前編のあらすじ>
明理(45歳)は父の登司(82歳)が倒れたことをきっかけに、娘の麻央(16歳)を連れて実家に戻り、父の介護をしながら3人で暮らすことに決めた。登司はがんに侵されていて余命わずかだった。姉の由佳理(51歳)に連絡をすると、父と不仲だったこともあり渋っていたが、夫を連れてやってきた。
「お父さんって遺産結構あるのよね? この家も売れば良い値段するんでしょ?」
と、デリカシーのない質問をする由佳理。その話を聞いていた登司は、遺産のことはしっかり話しておかなければいけないだろうと、作成してあった遺言書を読む。それは、孫娘の麻央が半分、残りの半分を由佳理と明理の姉妹2人に均等に相続させるという驚きの内容だった……。
●前編:「遺産結構あるのよね?」余命わずかな父の遺産目当てに帰省した姉夫婦。一族を驚かせた“遺言書の内容”とは
ろくでもない姉からの提案
遺言を読み終えた登司は、再び自分の部屋に戻った。
麻央も遺言書を棚に戻し、登司に付き添ってリビングを出る。
残されたのは明理と由佳理と哲也の3人。由佳理は眉間に深いしわを作り、頭を抱えていた。
「ねえ、あんた、これでいいの?」
「どういうこと?」
「半分もあんたの娘が持って行くことに関してよ」
「お父さんは麻央の将来のことを考えて、そうしてくれたのよ」
明理は正直な気持ちを語る。しかし由佳理は納得していなかった。
「じゃあ私たちは4分の1しかもらえなくても良いって言うの⁉ こんなの違法じゃないの⁉」
由佳理はヒステリックな声を上げる。そこで明理はすぐに携帯で調べた。
「どうやら、問題ないみたいね……」
「ウソでしょ……?」
「うん、子供は最低限4分の1を相続させればいいみたい。だから今回の配分は問題ないと思うよ。きっとお父さんもそのことを調べた上で、遺言書を書いたんじゃないかしら」
由佳理は肩を震わせる。
「わ、私には必要最低限だけでいいってこと……?」
「でも、それは仕方ないよ」
明理がそう言うと、由佳理が目をひんむく。
「どういう意味よ……?」
「だって姉さんは実家を出てから全然帰ってこなかったでしょ。お母さんが入院したときだってそうだし、葬式だってすぐに帰ったじゃない。そんなことをしておきながら、遺産だけはもらいたいって、そんなの通用しないよ」
「……へ、へえ。あんたが私に意見するなんてね。偉くなったもんじゃない」
「いや、別にそういうわけじゃ……」
「ふん、私も娘を使ってアイツに取り入ってれば良かったわ。そうすれば、あんたみたいに遺産の7割以上を独占できたのにな~」
明理は気付かれないようにため息をついた。
「そんなつもりあるわけないでしょ」
「男に捨てられて、シングルマザーやってるから、お金は要るもんね~。したたかだわ~」
由佳理の嘲笑に頭が熱くなった。しかしここで怒っては向こうの思うつぼだと、怒りを収める。
哲也が由佳理に何かを話しかけ、そこから2人は内緒話をし始めた。
そこから漏れ聞こえる単語は「支払い」だったり、「期限」だったり、ろくでもなさそうなものだった。2人は金に困っている。それだけは明白だ。
「あんたさ、まだこの家にいるつもりなの?」
「うん、しばらく有休取ったし、麻央も夏休みだから」
由佳理は舌打ちをする。
「……まだそうやってこびを売るつもり?」
「どういう意味よ?」
「これからは私がお父さんの世話をするから。あんたらは出て行きなさいよ」
由佳理の提案に驚いた。
「え? 姉さんが?」
「当たり前でしょ。家族なんだから」
由佳理の口から出る家族という単語はあまりにもチープで取って付けたようなものだった。
その日はそれだけを言い残して帰ったものの、翌日から由佳理は本当に登司の身の回りの世話をするようになった。