最期まで見守る覚悟
しかしこれで全てが解決をするわけではなかった。
老人ホームにりつを入れてしばらく経ち、益実は平穏な生活を手に入れていた。いつものように仕事終わりの清志と晩ご飯を食べていた清志の顔が浮かなかった。
「何かあったの?」
「……実は昼間に施設の職員さんから連絡があったんだ」
「それってお義母さんのこと……?」
「施設でお金が盗まれたって騒いでるらしいんだ。そのたびに職員さんが探して渡してるんだ。もちろんすぐに見つかりはするんだけど、何度もあるから大変みたいでね」
「……どうしてそんな風になっちゃったんだろう」
「こればっかりは分からないよ。昔は別にお金に執着なんてなかったから。そういう人になってしまったんだと考えるしかない」
ため息をつく清志を益実は見つめる。
「……そうね」
「それはまだ良いんだけど、今後認知症が酷くなったら本当に財布を落としたりなくしてしまったりすることがある。そうなったら金銭的に大変なことになると思うんだ」
清志の言葉に益実は頷く。
「……それは分かるけど、どうしたらいいの?」
「職員さんから後見制度っていうのを聞いたんだ。その手続きをすることで母さんの代わりに俺たちが金銭の管理をできるようになる。今の母さんにはきっと管理なんてできないからさ」
「……そう。それじゃその手続きをしたほうがいいわね」
益実がそう言うと清志は黙って頷いた。
りつはこの先どんどん認知症が酷くなっていくだろう。そしてそのたびに振り回されることになるのだろう。しかしそれでも最期までりつを見守り続けることだけは夫婦で決めていた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。