<前編のあらすじ>
益実は足腰の悪い義母・りつのため、片道30分かけて通い介護を続けていた。穏やかで感謝深い義母との時間は、益実にとっても貴重な交流だった。
しかし最近、りつの物忘れが目立ち始める。味噌を買ったことを忘れ、同じ話を繰り返すことも増えていた。
益実は認知症の兆候を疑いながらも、清志と相談しつつ義実家への通いを続けていたところ、財布がなくなったとりつが家中をひっくり返し、泥棒だと騒ぎ出す。取り乱す義母の変貌ぶりに衝撃を受けた益実は、さらに人づてに「益実がお金を盗んでいる」とりつが話していたと知らされ、目の前が真っ白になった。
●【前編】“義母の財布を盗んだ嫁”の烙印…穏やかな通い介護が一転、優しかった義母の変貌とは…
介護放棄で罪悪感に苛まれる益実
結局その日、益実は義実家に行くことはできず、買い物袋を持ったまま家に帰り、ソファで背もたれに寄りかかり打ちひしがれていた。
介護を初めて放棄してしまったことへの罪悪感とりつへの怒りが混ざっていった。
今日行かなくてもいつかは行かなくてはいけない。そうしないとりつは大変なことになる。それは分かっているのに、りつの顔を思い出すたびに肺が締め付けられたような感覚になり、息が苦しくなった。
「もう無理だよ……」
言葉が漏れ出て、益実は静かに涙を流した。
◇
夜になって帰ってきた清志に事情を話すと、清志は苦しそうに顔をしかめた。
「……そうか。そんなことがあったのか」
「……ごめんなさい。もう私はお義母さんの面倒を見ることができない。正直ずっと苦しかった。でもいつか老人ホームに入れられるその日までは頑張らないとって思ってたの。お義母さんにだってお世話にもなったしね。恩返しをしないといけないと思ってたから。でも、もう限界よ」
益実は声を震わせて胸の内を話す。そんな益実の手を清志は握る。
「……それでいいんだ。お前が無理をするようなことじゃない。俺ももう一度母さんと話をしないといけないと思ってた。でもあんなに怒る母さんを見たことなくてちょっと気が引けてたんだよ。でもそれで益実を追い詰めてしまっていた。本当に悪かった」
清志はそこで頭を下げた。益実は首を横に振った。
「あなたが謝ることじゃないわ。それにお義母さんだって悪くない。お義母さんがあんな人じゃないってのは私だって分かってるから。だからこそお義母さんに怒鳴られたりキツいことを言われるのが辛くて……」
「分かってる。だから俺たち家族全員が幸せになるには母さんを老人ホームに入れることしかないよ。ここからはプロに任せるしかないからさ」
清志の言葉に益実は肩の荷が下りたような感覚になる。心の底から清志と結婚して良かったなと思った。
「でもお義母さんを説得するのは簡単じゃないわよね?」
「いくらでも話し合うさ。どれだけ怒鳴られても詰られても俺は逃げずにしっかりと話をしようと思う」
清志は決意を秘めた目でそう語った。