いつもの空き地に車を停めて車から降りた益実は、助手席側にまわって買い物袋を取り出す。袋の中には食料品や日用品が入っている。

どれも、益実の義母にあたる林田りつのために買ったものだ。

りつは足腰を悪くしていて、外を1人で出歩くことが難しい。家の周りをゆっくり散歩するくらいならできるのだが、買い物までは難しいのでこうして毎回益実が買い物をしていた。

家から車で30分ほどの距離があり、通い介護は楽ではなかったが、りつとの関係が良好なこともあって苦ではなかった。

苦ではなかった義母の介護

買い物袋を提げて歩いていると、近所に住んでいる千恵と出くわす。

「あら、今日もりつさんのところに?」

「ええ、そうなんです」

「毎回毎回偉いわねえ。うちの息子たちなんて会いに来てもくれないからねえ」

そんな他愛のない世間話もそこそこに、益美は義実家へと向かった。

昔ながらの一軒家に着き、益実は渡されている合鍵を使って玄関を開ける。リビングからはテレビの音が聞こえてくる。

「お義母さん、体調はどう?」

テレビから視線を外して振り返ったりつは、いつも通りの柔和な笑顔を見せる。

「元気よ。益実さんこそどうなの? いつもいつも私の世話ばっかりで大変でしょう?」

益実は笑って首を横に振る。

「そんなの気にしないでください。もう子供たちも独り立ちしてるし、家にいても寂しいだけですから」

益実にとって、りつは貴重な話し相手でもあった。だからこそ通い介護も苦ではないのだろう。ただ最近は気がかりなこともあった。

「そうだ。益美さん、お味噌が切れちゃったみたいでね」

「えっ? 一昨日、買ってきて冷蔵庫のなかに入れておきましたよ」

益実の言葉にりつは首をかしげながら頷く。

「ああ、そうだったかしら?」

「ちゃんと昨日言いましたよ」

益実はそのやり取りをはっきりと覚えていた。何なら味噌を買ってきてほしいと連絡をしてきたのはりつだ。しかしりつは覚えてないのか頷くだけで何も返してこなかった。

益実はそんなりつをじっと見つめた。最近、こんなことが度々起こる。物忘れが激しくなっているし同じことを何度も話したりしている。

益実はりつが認知症になっているのではないかと思うようになっていた。あまり酷くなるようだったら医者に行くことも夫の清志と相談しつつ、益実は義実家に通い続けていた。