ご近所さんら驚きの報告

それからというもの、りつはたびたび癇癪を起こし、益美を突然怒鳴りつけるようになった。きっかけは些細なことだ。何かがないと騒ぐこともあれば、食事が塩辛いと腹を立てることもある。だが共通して前触れがなく、いつもそれは突如として訪れた。

そんなりつを、益実は負担に感じるようになっていた。苦ではなかったはずの通い介護は、いつの間にかとても憂鬱なものになっていった。

いつものように買い物をして義実家に向かっていると、千恵が前から歩いてきた。笑顔で挨拶をするが、千恵は反応に困ったような苦笑いを浮かべ、近づいてくるや声を潜める。

「……ちょっといい?」

「はい、どうかしました?」

「りつさんがあなたがお金を盗んでるって言ってたんだけど、あれは勘違いよね……?」

信じがたいことを千恵は聞いてきた。益実は思わず千恵に顔を近づける。

「はい?」

「いや、疑うわけじゃないのよ。りつさんがね、泣きながらそう言ってたから……」

千恵の言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ白になった。

●認知症の兆候があった義母の介護が憂鬱になっていた嫁の益実。ついには人づてに泥棒呼ばわりされていることを知ってしまう…… 後編【「もう無理だよ」義母の介護をやめた日、罪悪感と愛情の狭間で揺れた夫婦の決断】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。