生活の立て直しと母娘の絆の再生
封筒の中に、小銭が少し。
わずかながら残金がある週が続くようになった。冷蔵庫のカレンダーには、小さな印が整然と並ぶ。管理ができていなかっただけで、そもそも大した出費があるわけではないのだ。その積み重ねに寿美は静かな安堵を覚えていた。
「見て、この白菜。先週よりちょっと安かったのよ」
そう言って笑う母。冷蔵庫の中には、使いかけの野菜と整頓された調味料。決して豪華とは言えないが、食卓に並ぶ献立にもバリエーションが現れ始めていた。
「こんにちはー! 寿美ちゃんいますー?」
玄関からえっちゃんの声が響く。寿美より先に母が玄関へ出迎えに行った。
「えっちゃんいらっしゃい。昨日はお買い物ありがとうね、助かったわ」
「いいのいいの、私もおしゃべり相手ができて楽しいから」
昼下がり、3人は寿美がお土産に持ってきた茶菓子を食べながら、小さなテーブルを囲んだ。
急須から注がれる番茶の香りが、ほのかに甘い。台所の窓には橙色の空が映り、時折、風が戸を鳴らす。
えっちゃんが不意にしみじみと言った。
「こうして堂々とおばさんを手伝える形になってよかったわ。前はちょっと、遠慮されちゃってたからね」
「お母さんって、人に頼るの苦手だからね」
「そう言うあんたもよ、寿美ちゃん。困ったときは、ちゃんと相談するんだよ」
昔と同じ調子だった。駄菓子屋の帰り道に、転んだ寿美の手を引っ張って起こしてくれた記憶がよみがえる。
「うん、そうする」
素直に頷いた寿美を見て、母が静かに湯呑を置いた。目が少し潤んでいるように見えたが、誰もそれには触れなかった。
縁側から秋の風が吹き抜けて、母の髪を柔らかく揺らした。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。