<前編のあらすじ>
長らく実家への帰省を避けていた50代主婦の寿美は、地元に住む幼馴染の悦子から電話を受け、寿美の母・宮子の変わり果てた様子を聞く。胸を痛めた寿美は実家へ様子を見に行くことを決める。
久々に訪れた母の家の中は埃っぽく散らかっており、生活ぶりは様変わりしていた。寿美は寂しい冷蔵庫に買い込んだ食料品を詰め込み、部屋の掃除を申し出る。
テーブルの上に積み上がった書類を片付ける中で、寿美は偶然ATMの明細を発見する。そこに記されていた残高はわずか数千円。長らく母を放置してきた寿美は、明細に示された極貧の現実を目の当たりにし、言葉を失うのだった。
●【前編】「お金に困ってるんじゃない?」実家訪問で娘が目にした実母の老後破産の兆候…ATM残高わずか数千円の厳しい現実
母の窮地を紐解く寿美
食卓に広げた紙の束を前に、寿美は深く息を吐いた。固定費、医療、日用品――中には何年も前から放置されたままの通知や、同じ名前の会社から届いた何通もの請求明細が混在していた。
「お母さん、これは……?」
寿美が手にしたのは、聞き慣れない配信サービスの請求書。
「なんだったかしらね……父さんがいた頃に、映画が見られるって契約したのよ」
「でも、ずっと使ってないよね?」
「ええ……解約、してなかったのかしら」
他にも、新聞の夕刊だけの契約、割高なプロバイダの紙の請求、電話会社のサポートサービス。ほとんどが、誰かが止めない限り延々と引き落とされる類のものだった。
「家のことは、お父さんが全部やってくれてたから」
そう言って母は小さく笑った。
たしかに寿美が幼い頃から、我が家の出納係は父のようだった。何か物をねだるたび「お父さんに聞いてみないと」と返され、がっかりしたのを覚えている。きっと幼いながらに両親の役割分担を察したのだろう、私は次第に母にお金の話はしなくなり、小遣いの交渉も、誕生日プレゼントの相談も父にするようになっていった。
「最初はね、お父さんがいなくても大丈夫って思ってたの。けど、だんだん余裕がなくなってね……」
「……どうしてそうなったの?」
「うーん、なぜかしらねえ……歳だから月に何度かは病院に通うでしょう? その薬代がね……あとは1人だとご飯を作るのが億劫で、出来合いのお惣菜で済ませたり、少し高くてもコンビニで買っちゃったり……節約しないとって思ってるときに、ちょうど洗濯機が壊れて買い替えたりしてるうちに……」
母の声はしだいに細くなった。要するに何も考えずに今まで通りの生活をしていたらこうなったということらしい。