<前編のあらすじ>

お盆明け、夫の祐司は朝から元気がなく、食欲不振が続いていた。妻の沙織は「夏バテだろう」と軽く見ていたが、祐司の影のある表情に漠然とした不安を覚える。

自身の仕事の忙しさにかまけて、その異変を深く追求することなく日常が過ぎていく中、沙織は祐司の会社からの電話で無断欠勤をしていることを知る。慌てて祐司に電話やメッセージを送るが、一切連絡が取れず、既読もつかない。

彼が出かけたのは間違いないが、行き先は不明。沙織はついに、夫の行方を追うため、飛び出すように家を出るのだった。

●【前編】「ご主人、どうされました?」夫の不調を夏バテと軽く見ていた妻…職場からかかってきた1本の電話に衝撃

失踪した祐司はどこへ?

駅前へ向かう道、信号待ちのあいだにもう一度電話をかけるが、コール音が虚しく響くだけだった。

ロータリーに着き、ベンチと植え込み、タクシーの列を順に見て回る。見覚えのあるシャツの背中は見えない。沙織は自販機の脇、喫煙所の隅、コインロッカーの前を確かめ、改札近くの柱の影まで目を凝らした。

次にコンビニ。店内を一周して、イートインの席を横目で数える。冷蔵ケースの前で立ち止まり、ミネラルウォーターとスポーツドリンクを1本ずつ手に取る。

会計を終えて、外でキャップを開け、ひと口飲む。喉を通る冷たさが一瞬だけ焦りを薄くする。沙織はスマホに短いメッセージを追加した。

「今、駅前にいる。心配だから返事して」

既読はつかない。

公園へ向かうと、昼下がりの滑り台が白く光り、木陰のベンチはまばらに埋まっている。砂場に風が渡る音。沙織は遊具の間をゆっくり歩き、端から端まで視線で撫でる。ブランコの揺れが止まるのを待つみたいに、しばらく立ち尽くす。

それでも祐司はいない。胸のざわつきは続く。

「ほんと、どこにいるの?」

他に思い当たる行き先もないので、仕方なくもう一度、駅に戻ることにした。

足取りは自然と速くなり、ロータリーの縁を回り込む。すると、タクシーの死角になる角に、自販機が3台並んでいて、その隅に人影が小さく丸まっているのを見つけた。

薄いシャツ、見慣れた肩のライン。沙織は息を呑み、駆け寄った。