病院でわかった祐司の現状
「……適応障害、だって」
「ちゃんと名前がつくんだね」
他人事のように言う祐司だったが、落ち着きなく指先が揺れている。
沙織は、その様子を見ながら、努めて落ち着いて話すようにした。
「だから、気分が落ち込んだり、食欲がなかったりしてたんだね」
「長期休暇明けや季節の変わり目の不調、9月頃に増える9月病とも言ってた……」
「初めて聞いた。そんなのあるんだね」
沙織は首を傾げた。
「俺も。五月病しか知らなかった」
「日本ではそっちが有名だもんね。あ、でも、秋にも似たことがあるんだって」
長い休みのあと、気温の変化、職場の空気。そんな些細な変化や要因で、人の心はあっけなくすり減り、壊れてしまう。
沙織は息を吐いた。
「私、夏バテとか、だらしないとか、ひどいこと言っちゃったね。本当にごめん。祐司の近くにいるのに全然気づけなかった」
祐司は首を横に振った。
「昨日、沙織が俺を見つけてくれて助かった。もう限界だったから」
「……帰ろう、祐司。嫌なことは何もしなくていいよ。会社には私から連絡するし、診断書も私が送っておくから。休職して、ちょっと環境を変えよう」
「……うん」
ベンチの横で木の影が揺れる。
ストレスを減らすために相談の場を持つことが大事だという勧めを思い出し、沙織は胸の奥がじんわり痛んだ。
軽く冗談めかして笑った先日の自分を照らし合わせ、急に居心地悪くなる。
「帰ったら、温かいもの作るね。食べられそうなら一口でも」
「味噌汁なら、いけるかも」
「お、じゃあ味噌汁とお粥にしよう」
立ち上がって歩き始めた祐司が歩道の縁でつまずきかけるたび、沙織はそっとその肘を支えた。