「競馬やボートはね、スポーツなんですよ。だからギャンブルとは違うんです」

唐揚げやサラダなど、居酒屋チェーンの定番メニューが並ぶ先で上等そうなジャケットを着こんだ男が豪語する。梨沙子は、そりゃ騎手とか、競艇選手とか、やっている人間からすればそうだろうと思う。だが、客席やラジオで結果に一喜一憂するのはまぎれもなくギャンブルでしかない。

「はぁ、そうなんですか」

「そうですよ。あ、お代わり飲みますか?」

梨沙子はため息交じりの相づちを打つ。失敗するわけにはいかないという気持ちが、目の前の男に警鐘を鳴らす。これ以上はあまり長居したくないなと思ったこともあり、お冷やを頼むことにした。

アラフォー×バツイチ独身女性の婚活

バツイチ独身の梨沙子はマッチングアプリを使っている。

41歳の梨沙子が元夫と離婚したのは30代のときだ。長年積み重ねてきた信頼が裏切られたことが原因だった。夫婦生活は円満だと思っていたが、夫が黙って多額の借金をしていたことや、夫婦の貯金に手を付けていたことを知った瞬間、神に誓ったはずの愛は嫌悪感に変わった。

信頼していた分、裏切られたショックは大きく、離婚してからしばらくは仕事に没頭し、友人と遊んだり、趣味に時間を費やしたりしていた。しかしここ数年、ふとした瞬間に孤独を感じることが増えてきた。特に夜眠る前など、唐突に将来への不安が胸に迫ってくる。老後、1人きりでどうやって生きていくのだろう。

誰か信頼できるパートナーがいたら、少しは安心できるかもしれない。そう思うようになって、ふと手軽に相手を見つけられるマッチングアプリを試してみる気になった。

プロフィルには自分の趣味や、仕事について真剣に書き、条件が合った何人かの男性とやりとりを始めた。だが、実際に連絡を取り、会ってみると、予想していた以上に現実は厳しいものだった。

たとえば3人目に会った、見た目が良くて話も弾む年下の30代の男性。彼は「洋服が趣味だ」と語っていた。梨沙子だっておしゃれは好きだ。好きなブランドは違ったが、彼が教えてくれる豊富な知識は、梨沙子も素直に楽しむことができた。

しかし彼の洋服好きは、単なる趣味の範囲を超えた異常なまでの浪費であることが判明した。ファッションブランドの新作を次々と買いあさり、1度袖を通しただけで2度と着ない洋服も多い上に、貯金は1桁だった。

梨沙子が感じた不安は、元夫の借金が発覚したときに感じた嫌悪感と似ていた。過去の失敗が頭をよぎり、これでは再びお金の問題で苦労することになるかもしれないという疑念が生まれた。彼からはその後もメッセージが届き、デートにも誘われたが、梨沙子はやんわりと断りながらフェードアウトした。

その後も何人かの男性と会ったが、いずれも長続きしなかった。趣味や性格など、合わない理由はいろいろあったように思う。だが中でも梨沙子がこだわったのはお金の価値観だった。

もうかつてと同じような失敗はしたくない。そんな気持ちで、梨沙子は婚活に臨んでいた。