婚活でギャンブルの魅力を語る男
またダメだったかと、梨沙子は内心でため息を吐いた。
「良かったら今度、一緒に競馬行きましょうよ。レースのことなんてわかんなくても、走ってる馬を見てるだけでも迫力ありますよ」
「ええ、まあ……」
梨沙子が向かい合っている男は、商社勤めの42歳。プロフィル写真はスーツ姿で、いかにも真面目そうな印象だった。メッセージの内容や頻度もちょうどよく、しばらく和やかな会話のラリーが続いた。趣味も投資ということで堅実そうな印象があったし、梨沙子と同様バツイチということもあって、1度会ってみることにした。
だが、このありさまだ。いくら稼ぎがあろうとも、ギャンブルに手を出すようではダメだ。
「ご趣味は投資なんじゃ……?」
「ああ、株とかもやりますけどね。1番は競馬です。元手を出して、大金を稼ぐんだから、競馬だって立派な投資のひとつですよ」
男はこともなげに言って、ビールを飲み干した。
「もしかして競馬はお嫌いですか?」
「いえ、なんというか、その、嫌いとかそういうことではないんですが……」
「ちなみに安心してくださいね。ちゃんと情報を集めて馬券を買えば、絶対に負けませんよ」
絶対に負けない。次は勝てる。そういうのはギャンブル好きの常とう句ではないだろうか。
今日会うまで盛り上がっていた梨沙子の気持ちは、あっという間に冷め――いや、凍り付いていった。