一人悩む妻に夫の態度は…

夜、夕食の片づけを終えてから、雅美は思い切って孝之に話を切り出した。

「ねえ、くるみの学芸会の衣装のことなんだけど……」

「衣装がどうした?」

彼はタブレットから顔を上げ、怪訝そうに眉を寄せる。

「ママ友から聞いたんだけど、他の家庭はアクセサリーやアレンジにお金をかけるみたいなの。ブランドの小物とか、特注の衣装とか……」

「はあ? 幼稚園児にブランド?」

孝之は肩をすくめ、軽く鼻で笑った。

「子どもの発表会なんて所詮親の自己満足なんだから、衣装なんて適当でいいだろ。だいたい俺、当日仕事で行けないし」

思わず言葉を失った。胸の奥が冷たくなる。あの幼稚園に通わせたいと言ったのは、世間体を気にする夫だった。「ここなら会社でも自慢できる」と言っていたくせに。

いざ雅美が不安を打ち明けると、突き放すような態度をとる。

「……でも、みんなすごく力を入れているみたいなのよ。くるみだけ浮いたら可哀想でしょ」

雅美が絞り出すように言うと、孝之は面倒くさそうにため息をついた。

「だから、そんなの気にする必要ないって。子どもは子どもで楽しむんだから。親が見栄張ってどうするんだよ」

テーブルの上のコップに映る自分の顔を見て、雅美は黙り込んだ。言葉にできない苛立ちと、どうしようもない孤独感が渦を巻いていた。

――いつも見栄を張ってるのはあなたの方でしょう。

孝之から逃げるように子ども部屋を覗きに行くと、くるみはぐっすり眠っていた。

小さな机の上には、指定の通園バッグ。明日用のハンカチとともに几帳面に並べられている。くるみの規則正しい寝息を聞きながら、雅美はそっとドアを閉めた。

●教育熱心な幼稚園で展開されるママ同士のマウント合戦についていけない雅美。学芸会衣装をどうするのか悩んだ挙句に出た行動とは…… 後編【愛情vsお金?「学芸会はブランド品が常識」の空気に手作り衣装で挑む妻…無関心夫の驚きの行動に娘が放った痛烈な一言とは】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。