「ただいまー」

聞こえてきた声と気配に、あさひは夕食作りの手を止めて玄関へ向かう。玄関には野球のユニフォーム姿でエナメルバッグやバットケースを下げたまま、スパイクを脱ごうと前屈している拓人の姿がある。

「うっわぁ、すごい泥だらけ。だいぶ派手にやったね~」

「昨日の雨でグラウンドが緩かったんだよ」

「ちょっとちょっと、そのまま上がんないで。そこでユニフォーム脱いじゃって」

「はー? ここ玄関だよ?」

「いいから。誰が掃除すると思ってんの」

あさひはゴミ捨て用の大きなビニール袋を持っていき、拓人がしぶしぶと脱いだユニフォームを入れていく。玄関は落ちた土であっという間に汚れていく。

「はい、靴下も」

最後に湿った靴下を受け取り、パンツ一丁になった拓人と汚れたユニフォーム入りのビニール袋をそのまま洗面所へと連行する。恥ずかしそうに腕で身体を隠している息子を見ていると、誰のお腹から生まれてきたんだかと呆れつつ、成長したんだなという実感も改めて湧いてくるから親というのは複雑だ。

「今日、カレーだからね。ちなみに、今日は特別にポークたっぷりです」

「え、マジ⁉ やった!」

勢いよく閉まった洗面所の扉の向こうから、シャワーの音が聞こえてくる。あさひはキッチンへと戻り、炊き立てのご飯をお皿に盛りつけ始める。