第一志望の企業の面接結果は…

それから啓太は順調に面接試験をクリアしていき、予定通り3月15日に最終面接を迎えた。

緊張した面持ちの啓太をさらに緊張した様子で清香は送り出した。予定では、最終面接が終わった後、当日中に直接啓太の番号に連絡が来ることになっている。

清香はその日、わざわざ有給を取って自宅で待機していた。

昼過ぎ。帰ってきたスーツ姿の啓太の表情からは、面接の出来は読み取れない。卒論をやると言ったきり啓太がこもってしまった自室の扉に耳を当ててみるものの、まだ合否の連絡は来ていないのか、それらしい声は聞こえない。

生きた心地がしなかった。リビングのソファに座り、全く頭に入ってこないワイドショーを観ながら、清香は息子の内々定を祈っていた。

「内々定だって」

と、夕食前に自室から出てきた啓太があっさりそう言ったとき、清香は自分でも驚くほどの叫び声をあげた。せり上がってくる感情を抑えられず涙を流した。

ついに啓太は第一志望の大企業から内定を取ったのだ。

そこからはお祭り騒ぎだった。

仕事から帰ってきた孝輔は自分のことのように喜び、嫌がる息子をこれでもかと抱きしめた。祖父母宅に連絡をすれば就職祝いが自宅に届いたし、ご近所さんにも自慢をした。清香は鼻が高かった。

1年後、地方支社に配属されることになった啓太を送り出すのは寂しい気持ちもあったが、それ以上に誇らしさが勝った。

あれから1年と8カ月。啓太は巨大企業のなかで出世し、清香たちでは想像もできないようなステータスを手に入れるはずだった。

それなのに――。

「は? 今何て?」

「だーかーら、仕事辞めるって」

啓太が2年目になった年の年末。帰省した啓太を囲み、家族3人で寄せ鍋を食べていたときのことだった。

啓太のその言葉を聞いた瞬間、清香は頭が真っ白になった。

●清香たちは考え直すよう促すが、啓太の意志は固い。そして啓太は仕事で自身が覚えた違和感について語るのだった。後編【一流企業の退職を決めた息子が明かした“まさかの本音”、高い給料や肩書よりも優先したかった「大切なこと」】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。