息子の就活の様子がどうしても気になる母

啓太は現在、都内の有名私立大学に通っている。私大の学費は決して安くはなかったが、昔から勉強ができた啓太を良い大学に行かせるための出費を清香たちは惜しまなかった。

もちろん、良い大学に行かせたのは、良い会社に就職するためだ。

いわば先行投資。

今年で4年生になる啓太の子育ての、最後の詰めが迫っていた。

「そういえば、就活は順調? もうすぐ三友商事の1次面接が始まるんでしょ?」

清香はふと思い出した風を装って口を開く。あまりプレッシャーは与えたくないと思ってはいるが、どうしても気になってしまうのだった。

「……うん。まあ別に準備はやってるから」

「面接ってどんなことをするの?」

啓太は大きく口を開けて豚肉を放り込む。

「言っても分かんないでしょ」

「……そうだけどさ、ほら特殊なこと聞かれるんじゃないの? 選考だってスピーディじゃない」

清香の時代は、最初の説明会から内定が出る最終面接までは約1カ月くらい時間をかけてじっくり就活したものだ。しかし啓太の第1志望である三友商事は3月上旬から選考をはじめ、中旬の最終面接が終われば即日で合否が出るとのことだった。
だが、親の心子知らずとはまさにこのことで、啓太の態度はつれなかった。

「大丈夫だよ。母さんがそこまで気にしなくても」

安心させてくれと喉まで言葉が出かかる。しかしそんな言葉を清香はぐっと飲み込む。その代わり、この子なら大丈夫と胸の奥で何度も言い聞かせる。

啓太は今までこの調子で中学受験から大学受験まで全て第一志望をつかみ取ってきていた。親には見せないようにしているが裏で努力のできる子なのだと清香は確信を持っている。