ギャンブルを辞めて始めたこと
ホームセンターの制服は、首元が詰まっていて少し暑苦しい。でも、ロッカールームの鏡に映る緑子の姿は、どこか誇らしげだった。
借金返済のためパートを始めて、もうすぐ1か月。覚えることが多い上、立ちっぱなしで体力的には厳しいが、その分充実していると感じる。家に閉じこもっていた
頃の緑子には想像もつかない感覚だった。
「今日はどうだった?」
夕食の席で祐樹が尋ねてくる。以前よりも帰宅が早くなり、緑子に代わって家事をこなしてくれることも珍しくなくなった。今夜の味噌汁も祐樹が作ってくれたものだ。
「うん、特にトラブルもなかったんだけど、ちょっと変わったお客さんが来てね」
「へぇ、どんな人?」
「まだ若い男の子なんだけど、急に『1番モテる観葉植物ください』って言ってきてね」
緑子が笑いながら話し始めると、祐樹は豪快に吹き出した。
「それはなんとも……ストレートっていうか、潔いというか……」
「素直で可愛いでしょ? その子、本当はワンちゃんが欲しかったらしいんだけど、マンションがペット禁止なんだって」
「それで観葉植物か……いろんな人がいるんだな」
感心したように言いながら、祐樹が味噌汁をすする。
「今日の味噌汁、ちょっと薄かったかな」
「そんなことないよ。優しい味がして、おいしい」
ほんのささやかな会話が、今はとても愛おしい。夜風がカーテンを揺らし、緑子たちの静かな食卓を、そっと包み込んでいた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。