昼休みのチャイムが鳴ると同時に、梨香は小さな保冷バッグを片手に社員食堂へと向かった。冷たい椅子に腰かけ、曲げわっぱの弁当箱を開けた途端、自然と口元が緩む。今日のメニューは、鶏そぼろと卵の二色丼。いや三色丼か。申し訳程度に添えられたインゲンの緑が眩しい。

「わ、また彼氏くんの手作り?」

こっそりスマホで撮影していると、少し遅れてやってきた同僚が「お疲れ」と短く声をかけながら、梨香の正面に座った。

同期で同い年の彼女とは、新卒のころ同じ部署に配属されて以来、10年近い付き合いになる。部署が別々になった今でも、こうして昼食をともにするくらいには仲が良い。

「そうそう、彼の出勤が遅い日は作ってくれるんだよね」

「いいなあ、梨香の彼は。うちの旦那なんて、インスタントラーメンですら私に作らせるのにさあ……」

早速始まった愚痴を聞きながら、梨香は不思議な気分になる。

「絶対20代のうちに結婚する」と宣言していた彼女は、いち早く婚活に励み、理想の相手を見つけて、3年前に29歳でゴールインを果たした。まさに有言実行だ。ところが、それから半年もしないうちに、彼女の口から放たれる言葉は、旦那への不満だらけになった。やはり夫婦という関係がそうさせるのだろうか。